ド・グラース級軽巡洋艦

ド・グラース級軽巡洋艦：未完成のまま終わった軽巡洋艦の物語

ド・グラース級軽巡洋艦は、第二次世界大戦直前のフランス海軍が建造した軽巡洋艦です。同国が建造した軽巡洋艦としては最後の艦であり、その生涯は数奇な運命を辿ることになります。本稿では、この艦級の概要、設計、そして戦後の改修について詳細に解説します。

ラ・ガリソニエール級の後継として

ド・グラース級は、ラ・ガリソニエール級軽巡洋艦を基に設計され、若干大型化されました。1937年計画で1隻の建造が決定、その後1938年度計画で2隻の追加建造が承認され、1939年7月20日に建造命令が出されました。しかし、同年9月の第二次世界大戦勃発により建造は中断。1940年6月、フランスがドイツに降伏すると、建造中のド・グラースはロリアンでドイツ軍に鹵獲されました。

ドイツ海軍による空母への改造計画

ドイツ海軍は、このド・グラースを軽空母に改造する計画を立てました。しかし、この計画は未完成に終わってしまいます。戦後、フランスに返還されたド・グラースは、1953年に防空巡洋艦として設計変更され、1956年に竣工しました。他の同型艦であるシャトールノーとギッシャンは未完成のまま終戦を迎えました。

クラシカルな船体と近代的な装備

ド・グラース級の船体形状は、フランス巡洋艦の伝統を受け継いだ船首楼型船体です。高く切り立ったクリッパー型の艦首は、優れた凌波性能を物語っています。艦首には15.2cm（55口径）速射砲を収めた三連装砲塔が2基、背負い式に配置されました。近代的な箱型艦橋と、全缶全機配置によって一本にまとめられた煙突が特徴的です。煙突の両脇には艦載艇揚収クレーンが配置され、その周囲には艦載艇置き場がありました。また、艦橋と煙突の間には、55cm三連装魚雷発射管が2基設置されていました。

煙突の基部は水上機格納庫になっており、舷側にはカタパルトが2基、クレーンが1基備え付けられていました。後部には後檣が立ち、その周囲には9cm（50口径）高角砲を連装砲架で3基配置。艦尾は垂直に切り立ったトランサム・スターン型で、水上機揚収施設であるハイン・マットの設置が予定されていました。

重厚な武装

主砲は、15.2cm（55口径）速射砲で、最大射程26,960mを誇りました。高角砲には、9cm（50口径）高角砲6門を搭載。その他にも、37mm機関砲、13.2mm機銃、55cm三連装魚雷発射管を装備していました。

強固な防御

防御面では、舷側装甲帯に105mm、主甲板に40mm、主砲塔に最大100mmの装甲が施されていました。

独自の揚収システム：ハイン・マット

ド・グラース級の特徴として、ハイン・マットと呼ばれる水上機揚収システムが挙げられます。これは、洋上着水した水上機を航行しながら回収するためのシステムで、対水性の生地のマットレスを艦尾から流し、水上機をマットに乗せて巻き取りながらクレーンで甲板に持ち上げる仕組みです。荒れた海面でも安全に水上機を揚収できる利点がありました。

機関

機関は、ボイラー缶とタービン機関を前後に並べる全缶全機配置を採用。防御重量を確保するため、アンドレ式水管缶4基を「田」の字型に配置し、その後にタービン機関2基を配置する構成になっていました。最大出力は110,000hpに達しました。

ド・グラース級のその後

ド・グラースは、戦後防空巡洋艦として改修され、フランス海軍に復帰。一方、シャトールノーとギッシャンは未完成のまま、歴史の彼方に消えていきました。ド・グラース級は、その短くも波乱に満ちた艦歴を通して、戦間期から戦後にかけてのフランス海軍の技術力と、激動の時代を象徴する存在と言えるでしょう。

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