ドービニーの庭

ドービニーの庭

フィンセント・ファン・ゴッホが1890年7月に描いた「ドービニーの庭」は、彼が滞在していたオーヴェル＝シュル＝オワーズのラヴー旅館近くにあった、画家シャルル＝フランソワ・ドービニーの邸宅の庭を題材とした作品です。

作品の背景

ゴッホはドービニーを深く尊敬しており、1878年にドービニーが亡くなった際には、弟テオに宛てた手紙で悲しみを綴っています。この作品には、ゴッホのドービニーへの敬愛の念が込められていると考えられます。

作品の特徴

この作品には、同構図のものが2点、異構図のものが1点、計3点の存在が確認されています。また、1890年6月半ばには庭の一部を描いた正方形の習作も残されており、ゴッホのこの題材への強い関心が伺えます。

同構図の作品のうち、1枚目はスイス・バーゼルのバーゼル市立美術館に所蔵されており、画面右下にはフランス語でタイトルが書かれています。

2枚目は、ゴッホが1890年7月23日付のテオ宛の最後の手紙の中で言及している可能性があり、その手紙にはスケッチも描かれています。このことから、2枚目は7月中旬から7月23日の間に描かれたと考えられ、ゴッホが自殺を図る数日前、最晩年の作品である可能性も指摘されています。

作品の変遷

本作はゴッホの死後、ドービニー夫人に寄贈されました。その後、1900年に競売にかけられた後、複数の所有者の手を経て、1929年にドイツのベルリン国立美術館に収蔵されました。しかし、1937年にナチスによる退廃芸術弾圧により美術館の近代画部門が閉鎖され、作品は宣伝省に没収されます。

その後、ヘルマン・ゲーリングが個人的に持ち帰り、オランダの画商を通じてユダヤ系銀行家・美術収集家のジークフリート・クラマルスキーの手に渡りました。クラマルスキーはナチスを逃れてアメリカに亡命し、戦後の1974年、クラマルスキーの息子によって競売にかけられた際、広島銀行が落札し、ひろしま美術館に収蔵されました。

塗りつぶされた猫

バーゼル市立美術館に所蔵されている作品では画面左下に猫が描かれていますが、ひろしま美術館所蔵の作品では猫の存在が確認できません。1900年の競売時に撮影された写真には猫が確認できることから、1901年4月頃に画家のエミール・シェフネッケルによって、補修のため塗りつぶされたと考えられています。この説は、圀府寺司（現大阪大学文学部教授）によって支持されています。また、吉備国際大学が行ったエックス線調査でも、塗りつぶされた下に猫が描かれていたことが確認されています。

一方で、小林英樹（現愛知県立大学美術学部教授）は、1999年の著書『ゴッホの遺言』の中で、後の作品に猫がいないことにはゴッホのメッセージが込められているという説を唱えました。しかし、この説には明確な根拠がなく、2009年の文庫化の際に修正されています。

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