ナイトピープル

『ナイトピープル』は、2013年に製作され日本で公開されたサスペンス映画です。門井肇が監督を務め、主演は佐藤江梨子が担当しました。この作品はPG12指定となっています。原作は、ハードボイルド作家として知られる逢坂剛の短編小説「都会の野獣」で、文春文庫に収められた『情状鑑定人』に収録されています。

企画と製作の背景
門井監督にとっては、過去に手掛けた吉村昭の「休暇」を映画化した『休暇』（2007年）、連城三紀彦の「棚の隅」を映画化した『棚の隅』（2008年）に続く、文芸作品の映像化としては三作目にあたります。本作は、昔の短編小説を映像化することを好むプロデューサーの小池和洋が原作を推薦したことから企画が始まりました。逢坂剛の作品群の中でも比較的アクション要素が少ないこの物語を選び、そこにアクションを加味し、現代を舞台に置き換えるという発想からプロジェクトは動き出しました。製作にあたっては、ジョニー・トーをはじめとする香港映画に造詣の深いシナリオライター、カメラマン、アクション監督、ガンコーディネーターといったスタッフが集められました。タイトルは、作家バリー・ギフォードの同名作品から借用されており、劇中に登場する「陳会」という名称は、内藤陳の本名に由来しています。原作をそのまま映像化するのではなく、予測を裏切る展開をさらに盛り込んだ本作の構成は、原作者である逢坂剛自身も高く評価しています。

公開情報
映画は2013年1月19日に甲宝シネマ、シアターセントラルBe館にて先行公開され、その後1月26日よりシネマート新宿ほか全国で順次劇場公開されました。

あらすじ
物語は、路地裏でマスターである木村信治が一人で切り盛りするワインバー「Night People」を舞台に展開します。ある日、履歴書を持った女性・杉野萌子が現れ、雇ってほしいと申し出ます。デザインを学ぶためにローマへ留学経験があるという彼女は、働き始めるとすぐに客からの評判を得ますが、古くからの常連客である花宮慧子だけは、萌子が信治の亡くなった元恋人、岡井里枝に酷似していることに気づいていました。

そんな中、曾根と名乗る男が店に現れ、萌子に馴れ馴れしく話しかけます。その態度に萌子は明らかに動揺を見せます。後日、昼間に店を訪れた曾根は信治に対し、萌子の本名が松山のり子であり、大石という男と組んで強盗を働いた犯人であると告げます。自身は警視庁交通課に所属する刑事（元捜査一課）であり、盗まれたのは単なる数百万円ではなく、公になっていない大物議員の裏金である2億円の行方を追っていると打ち明けます。未だ逃走中の主犯・大石と萌子がいずれ接触し、金のやり取りがあるはずだと睨み、張り込みを行っていると説明します。出勤してきた萌子はこの話の一部始終を聞き、全てを悟って店を辞めようとしますが、いつしか萌子に特別な感情を抱いていた信治は彼女を引き留め、新しい制服を渡して働き続けるよう促します。しかし、花宮は信治に曾根と萌子がホテルのラウンジで密会している写真を突きつけ、二人は共犯だから早く萌子を解雇すべきだと忠告します。自身も二人が一緒にいるところを目撃した信治は、ホテルで萌子を問い詰めます。しかし萌子は逆に、「あなたも同類なのでは？」と信治の過去を示唆しつつ、「曾根を殺してくれれば、私と2億円はあなたのものになる」と語り、テトロドトキシンの粉末を手渡すのでした。

数日後、毒薬を隠し持った信治は曾根の部屋にいました。「あの女は危険だから殺してしまおう」と手を組むそぶりを見せながら、曾根の目を盗んで飲み物に粉末を混入させることに成功し、曾根は苦しみ倒れます。萌子と落ち合い、2億円の隠し場所へ案内された信治は、そこで一枚の写真を目にします。そこには萌子ともう一人、瓜二つの女性が写っていました。そして萌子は、自分が信治の元恋人である岡井里枝の姉、岡井美枝であることを明かします。「あなたが里枝を殺したのでしょう？」という問いに対し、信治は「ああ、俺がマンションから突き落としたんだ」と答えます。その直後、死んだはずの曾根が姿を現します。

一体誰が誰を欺き、真実を語っているのは誰なのか。そして2億円の行方は――。

キャスト
主要キャストは、杉野萌子（岡井美枝）を演じる佐藤江梨子、木村信治役の北村一輝、花宮慧子役の若村麻由美、葛西役の三元雅芸、曾根刑事役の杉本哲太、カツムラ役の阪田マサノブらが名を連ねます。映画オリジナルのキャラクターを含め、個性豊かな俳優陣がキャスティングされました。

製作エピソード
主演の佐藤江梨子と北村一輝は本作が初めての共演となりました。キャスティングにあたっては、「腹に一物抱えたような演技ができる人」が重視され、若村麻由美や杉本哲太らが起用されました。登場人物たちが互いを騙し合う心理戦や駆け引きがこの映画の最大の魅力であり、北村一輝はシナリオを読んで即座に「やりたい」と申し出たほどでしたが、観客にどこまでヒントを見せるかという演出の難しさには、監督も役者も悩みました。北村は芝居の細かなニュアンス、特に目線や手の動きで思わせぶりな雰囲気を出すことに意識を集中し、それ以外は監督に委ねたといいます。佐藤は、甘い言葉で殺人を唆したり、急に冷徹な表情に変わったりと、捉えどころのない悪女である萌子役について、役柄の変化に苦労しつつも、アクションシーンやキスシーンを含め楽しく演じられたと語っています。萌子の放つ「おっさん、話長いんだよ！」というセリフは、シナリオライターの一押しであり、観客にも印象を残しました。物語の後半には、原作にはないヤクザの葛西というキャラクターが登場し、アクションシーンが追加されました。葛西を演じた三元雅芸は、プロデューサーから「『ブラック・レイン』の松田優作をイメージしてほしい」と指示され、プレッシャーを感じたといいます。街中での銃撃戦は企画当初からの重要な要素であり、映画の見どころの一つですが、これを主人公たちが引き起こす設定にすると監督の「悪役でも憎めない人物にしたい」という方針に反するため、葛西を中心としたアクションパートとして描かれ、二つの物語がリンクする構成となりました。葛西の登場シーンには火を使ったパフォーマンスが取り入れられていますが、これは暗闇の中での火が葛西の激しい感情を表現できると考え、山梨の活動家を起用して実現したものです。また、原作では信治が悪人としてのみ描かれがちなため、信治と萌子が互いに惹かれ合うシーンや、信治が銃を一度も撃たない設定も、キャラクターに深みを与える目的で追加されました。対照的に、萌子役の佐藤は男性に引けを取らない激しいガンアクションを披露していますが、役柄が銃の扱いに慣れていない素人であることから、当たりすぎたり装填に慣れていないような演出が工夫されました。若村麻由美演じる花宮慧子がショットガンを撃つシーンも登場し、監督によれば男性観客から好評を博したといいます。葛西役の三元は北村一輝に強い憧れを抱いており、役柄の関係性から撮影中はあえて話しかけるのを避けていましたが、北村はその真意に気づき、三元のクランクアップの際には駆けつけて労いの言葉をかけ、共に酒を酌み交わしたというエピソードがあります。

ロケーション
撮影はすべて山梨県内で行われ、甲府市や甲斐市などがロケ地となりました。特に銃撃戦のシーンは、実際に暴力団の抗争があった中心地で、「これ以上は縄張りが違うから危険だ」と言われるような、文字通り危険と隣り合わせの場所で撮影されました。甲府の商店街での撮影では完全な封鎖が難しく、一般車両が行き交う中で撮影が続けられ、演じている俳優たちの背後にリアルな通行車両が映り込む場面も見られます。

印象的なシーンと結末
門井監督自身が特に気に入っているシーンとして、ペンションで信治と萌子が隣り合って過去を語り合う場面を挙げています。当初は屋外での撮影を予定していましたが、マイナス15度の極寒の中で大雪が降ったため、急遽カメラマンの発案でペンションのロビーに変更されました。この変更が功を奏し、窓から差し込む光が独特な雰囲気を生み出し、登場人物の心情描写に寄り添う心温まる映像が撮れたことで、編集でカットされることなく全てのシーンが使用されました。他にも、信治が薬を飲んでいないことを示すシーンに北村のアイデアが採用されたり、曾根のトレードマークであるマフラーが杉本哲太の意見で追加されたりするなど、監督、スタッフ、キャストの様々なアイデアが作品に取り入れられています。本作はエンターテイメント性を追求しており、観賞後に後味の悪さが残ることを避けるという監督の意向から、あえて定番とも言える展開で明るく終わるような結末が採用されました。

騙し合いと裏切りが複雑に絡み合う人間ドラマと、予測不可能な展開、そして迫力あるアクションが融合した一作です。

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