ナイト・パッセージ

ナイト・パッセージ

『ナイト・パッセージ』（原題：Night Passage）は、アメリカのエレクトリック・ジャズ・グループ、ウェザー・リポートが1980年に発表した通算9枚目のスタジオ・アルバムである。

制作と背景

本作に収められた楽曲の大部分は、1980年7月にロサンゼルスのコンプレックス・スタジオにて、わずか2日間のセッションでレコーディングが行われた。この集中的な録音期間において、特筆すべきは、収録曲のうち2曲がスタジオに約250人もの観客を招き入れ、ライブ形式で収録された点である。この観客には、著名なプロデューサーであるクインシー・ジョーンズをはじめとする音楽業界関係者も含まれていた。これは、スタジオ録音でありながら、コンサート会場のような生きた空気感を取り込もうとするユニークな試みであったと言える。

一方で、アルバムに収録されている「マダガスカル」という楽曲は、同年6月に日本の大阪フェスティバルホールで行われたコンサートでの実際のライブ演奏から採用されている。このように、本作はアメリカ国内のスタジオ録音と日本のライブ録音という、異なる環境で収録された音源が混在する構成となっている。

また、このアルバムから、パーカッショニストとしてロバート・トーマス・ジュニアが新たなメンバーとしてグループに加わっている。彼の参加は、ウェザー・リポートのサウンドに新たなリズムとテクスチャーをもたらすこととなった。

音楽性

『ナイト・パッセージ』は、ウェザー・リポートがこれまでの作品で多用してきた、特に1978年のアルバム『ミスター・ゴーン』において顕著に見られた、楽器パートを幾重にも重ねて構築していく緻密な多重録音の手法から、明確に転換を図った作品である。本作では、そうしたオーバーダビングを極力抑え、その代わりに、メンバー個々の奏者による単独での即興演奏がサウンドの前面に打ち出されている。このアプローチは、古典的なジャズが持つ伝統的なスタイル、すなわちプレイヤーの瞬時のひらめきや相互の応答に重きを置く演奏への回帰とも解釈できる。結果として、アルバム全体を通じて、より生々しく、ライブ感に溢れた躍動的なサウンドが展開されている。メンバー間のインタープレイや各奏者のソロパートが際立ち、彼らの持つ高度な演奏能力と創造性がダイレクトにリスナーに伝えられるようになった。

アートワークと関連情報

アルバムのジャケットに使用された写真は、ピート・ターナーによって撮影されたものである。

また、本作に収録されている楽曲「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」（Three Views of a Secret）は、後にベーシストであるジャコ・パストリアス自身のソロ・アルバム『ワード・オブ・マウス』（Word of Mouth）においても再びレコーディングされ、彼の代表曲の一つとして知られるようになった。

パーソネル

ジョー・ザヴィヌル (Joe Zawinul) - キーボード、シンセサイザー
ウェイン・ショーター (Wayne Shorter) - サクソフォーン
ジャコ・パストリアス (Jaco Pastorius) - フレットレス・ベース
ピーター・アースキン (Peter Erskine) - ドラム
* ロバート・トーマス・ジュニア (Robert Thomas Jr.) - パーカッション

『ナイト・パッセージ』は、ウェザー・リポートのディスコグラフィーにおいて、その音楽的アプローチの変化を示す重要な節目となった作品であり、バンドの新たな方向性を提示したアルバムとして位置づけられている。

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