ナガレミミズハゼ

ナガレミミズハゼ（Luciogobius fluvialis）

ナガレミミズハゼは、静岡県安倍川水系に固有のミミズハゼの仲間です。その生息範囲の狭さと、開発による生息環境の悪化から、絶滅の危機に瀕しており、保護の必要性が叫ばれています。

分布

ナガレミミズハゼは、静岡県の安倍川水系、特に藁科川に生息しています。かつて和歌山県の有田川で発見されたという報告がありましたが、詳細な標本の画像や形態的特徴の記述がなかったため、別種である可能性が高いとされています。大井川下流域で確認された個体についてはナガレミミズハゼであるという結論が出ています。彼らは、河川の中流から下流域にかけて、地下水や伏流水が湧き出る、砂や砂礫の底にひっそりと暮らしています。

形態

全長は4～6cm程度で、頭部は小さく縦に平たい形をしています。体は細長く、背鰭、腹鰭、臀鰭は退化していません。胸鰭には遊離軟条がなく、肛門は臀鰭のすぐ近くに位置しています。近縁種のユウスイミミズハゼとよく似ていますが、いくつかの点で区別できます。ナガレミミズハゼは、第二背鰭軟条数と臀鰭数が通常9本であるのに対し、ユウスイミミズハゼは8本です。また、腹椎骨の数も異なり、ナガレミミズハゼは16-17個、ユウスイミミズハゼは15個です。さらに、脊椎骨の数も、ナガレミミズハゼは32-33個、ユウスイミミズハゼは30-31個となっています。体色は黄色みを帯びた透明感のある色をしています。

生態

ナガレミミズハゼは、4月から5月頃にかけて、礫の中に産卵します。詳しい生態については、まだ不明な点が多く残されています。今後の研究による解明が期待されます。

保全状況

ナガレミミズハゼは、河川工事による生息地の破壊、改変、濁水、転圧などによって、その存続が脅かされています。生息が確認される前に河川改修や護岸工事が行われ、貴重な生息場所が失われてきたと考えられています。そのため、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧（NT）に指定されています。また、静岡県レッドリストでは、より深刻な絶滅危惧IA類に指定されています。

このような状況を受け、安倍川と大井川を管理する国土交通省静岡河川事務所は、「安倍川・大井川希少魚類保全対策連絡会」を組織し、地域の研究者と協力して保護活動に取り組んでいます。河川工事の際には、生息地の一部を避けて施工したり、工事排水の濁度やpHの基準値を設けて管理するなど、生息環境への負荷を減らすための様々な配慮を行っています。しかし、生息地での細粒土砂の堆積や、地下水の汲み上げによる湧水の減少など、依然として生息環境の悪化が懸念されており、継続的な保護対策が求められています。

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