ナサニエル・ウォーリッチ

ナサニエル・ウォーリッチ：インドの植物研究に貢献した医師・植物学者

ナサニエル・ウォーリッチ（Nathaniel Wallich、またはナタナエル・ヴァリック Nathanael Wallich）は、18世紀後半から19世紀中頃にかけて活躍したデンマーク生まれの植物学者、外科医です。彼は、イギリス東[[インド会社]]に雇われ、インドでの植物研究に情熱を注ぎました。多くの植物をヨーロッパに紹介し、その後の植物学の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと教育

1786年1月28日、ナータン・ベン・ウルフ（Nathan ben Wulff）としてコペンハーゲンに誕生しました。父親はドイツ出身のセファルディ系ユダヤ人実業家ウルフ・ベン・ウォーリッチです。ウォーリッチは、デンマーク王立外科アカデミーで医学を学びましたが、その一方で、植物学への関心も高く、エリック・ヴィボー、マルティン・ヴァール、ハインリック・クリスチャン・フリードリッヒ・シューマッハー、イェンス・ヴィルケン・ホルネマンといった著名な教授陣から薫陶を受けました。

インドでの活動

1806年にアカデミーを卒業後、ウォーリッチはインドのベンガル地方セランポールにあるデンマーク人入植地の医師に任命されました。1807年4月にインドへ向かい、同年11月に着任しました。しかし、ナポレオン戦争の影響で、セランポールを含むデンマーク領はイギリスに占領され、ウォーリッチは一時捕虜となります。1809年、彼の学識が認められて仮釈放され、その後、インドの植物研究に本格的に取り組むことになります。

ウォーリッチは、インドの植物や植生に強い興味を持ち、1813年までにネパール、西ヒンドスタン、ビルマなどを探検しました。1814年からはイギリス東[[インド会社]]の軍医助手となり、同時に植物の研究にも力を入れました。彼は、アジア協会に博物館の設立を提案し、自身のコレクションを寄贈しました。そして、同協会の名誉学芸員に任命され、後に東洋博物館の監督官となりました。博物館はウォーリッチの指導と、ヨーロッパ人やインド人の協力によって充実しました。特に、インド人事務局長となったBabu Ramkamal Senの協力は特筆されます。

また、1817年から1846年の引退まで、コルカタの東インド会社植物園の監督として勤務しました。1837年から1838年には、カルカッタ医学学校の植物学教授も務めました。

植物学への貢献

ウォーリッチは、20,000種を超える植物を記載した「ウォーリッチ・カタログ」を作成しました。このカタログには、ウォーリッチ自身が収集した標本の他、同時代のロクスバー、ゴメス、グリフィス、ワイトなどの収集家が集めた標本も含まれています。彼の個人コレクションは、現在、キュー植物園の「ウォーリッチ・コレクション」として保管されています。また、ジョゼフ・バンクスに送った標本もキュー植物園に保存されています。

ウォーリッチの植物学への貢献は、標本収集のみにとどまりません。彼は、コルカタを拠点に、ヒマラヤなどに向かう多くのプラントハンターを支援しました。彼の支援は、植物学の発展に大きく貢献しました。

著書

ウォーリッチは、以下の著書を著しました。

"Tentamen Floræ Nepalensis Illustratæ" (vols I-II, 1824–26)
"Plantæ Asiaticæ Rariores" (vols I-III, 1830–32)

特に、"Plantae Asiaticae rariores" は、カルカッタ植物園が雇った画家による図版が付属した豪華な書籍です。ゴラチャンド、ヴィシュヌパーサウドらが図版の大部分を描き、他にラングィア、ジョン・クラーク、ウィリアム・グリフィスらが描いた図版も含まれています。250冊が製作され、40冊は東インド会社が購入しました。

その後

ウォーリッチは、引退後はロンドンで暮らし、1854年に同地で亡くなりました。1818年には王立協会フェローに選出されています。また、ツバキ科の植物であるSchima wallichii（ヒメツバキ）など、多くの植物が彼に献名されています。

まとめ

ナサニエル・ウォーリッチは、インドの植物学の発展に大きく貢献した人物です。彼の収集した標本は、現在も重要な資料として活用されており、その研究は後世に受け継がれています。彼の功績は、植物学の歴史において決して忘れることはできません。

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