ナショナル・ウォレス・モニュメント

スコットランドの古都スターリングからほど近い、アビー・クレイグと呼ばれる丘の上に、堂々たる塔が聳え立っています。これが「ナショナル・ウォレス・モニュメント」、一般には単に「ウォレス・モニュメント」として親しまれている建築物です。この塔は、13世紀後半にスコットランドの独立を守るために立ち上がった国民的英雄、ウィリアム・ウォレスの功績を後世に伝えるために建てられました。

建設の歴史的背景と建築

モニュメントの建設は、19世紀半ばにおけるスコットランドのナショナル・アイデンティティの高揚という時代背景の中で計画されました。建設計画は、国民から広く寄せられた寄付金によって推進され、その資金にはスコットランド国内だけでなく、遠く海外からの支援も含まれていました。例えば、イタリアの統一に尽力した偉大な指導者ジュゼッペ・ガリバルディも資金提供者の一人であったと伝えられています。

設計は建築家ジョン・トーマス・ロシェッドが手掛け、1869年に完成に至りました。塔は高さ約67メートルに達し、砂岩を緻密に積み上げて造られています。外観にはヴィクトリアン・ゴシック様式が採用されており、当時の建築トレンドを反映しつつも、英雄を顕彰するにふさわしい威厳を備えています。アビー・クレイグの丘が建設地に選ばれたことには、特別な意味合いがあります。この高台は、ウィリアム・ウォレスが1297年のスターリング・ブリッジの戦いの直前に、イングランド王エドワード1世率いる大軍の動きを偵察した場所だとされているからです。この場所から敵情を把握し、巧みな戦術でイングランド軍を打ち破ったウォレスの戦略的洞察力を記念する意味合いも込められています。

観光スポットとしての魅力

現在、ナショナル・ウォレス・モニュメントは一般に公開されており、多くの観光客が訪れる人気のスポットとなっています。塔の内部は資料館となっており、ウィリアム・ウォレスの生涯や彼の活躍した時代に関する様々な展示がなされています。中でも特に注目を集めるのが、ウォレスが実際に使用したとされる長さ約1.5メートルにも及ぶ巨大な剣です。この剣は、伝説的な英雄の存在を間近に感じさせる貴重な展示品となっています。

塔の頂上まで登ると、眼下には歴史的なスターリングの街並み、そして遠くには起伏に富んだオチル丘陵、さらにはゆったりと流れるフォース川といった、スコットランド中央部の壮大なパノラマが広がります。しかし、この素晴らしい眺望にたどり着くためには、決して楽な道のりではありません。塔の内部には幅の狭い螺旋階段があり、訪問者は246段もの階段を自力で登る必要があります。それでも、その労力に見合うだけの感動的な景色が待っています。

映画『ブレイブハート』の影響とウォレス像

1997年、モニュメントの駐車場にウィリアム・ウォレスの新たな彫像が設置されました。しかし、この像は歴史的な考証に基づいたウォレスの姿を忠実に再現したものではありませんでした。その代わりに、1995年に公開され、ウォレスの生涯を描いて世界的にヒットした映画『ブレイブハート』で主人公ウォレスを演じた俳優、メル・ギブソンをモデルにしているのです。実際に、この像が持つ盾には、映画のタイトルである「Braveheart」の文字が刻まれています。

この像の設置に対しては、一部のスコットランド国民から批判の声が上がりました。その歴史的な根拠の欠如、すなわち史実に基づかない外見が問題視され、「あまりにも歴史的ではない」として像の撤去を求める運動も起こりました。しかし、この撤去要求は公式には認められず、現在もこの像は現地に留まっています。この状況について、ウィスコンシン大学の学生新聞『デイリー・カーディナル』に寄稿したウィリアム・テンビーは、皮肉を込めて「悲しいことに、世界の多くの人々にとってウィリアム・ウォレスは、尻の穴から稲妻を発する身長2メートル超の巨漢ではなく、少しばかり型破りなメル・ギブソンを思い起こさせる存在になってしまったのだろう」とコメントしています。これは、映画の影響力によって、史実の英雄のイメージが変容してしまった現状をよく表しています。にもかかわらず、あるいはそれゆえに、このモニュメントは歴史、文化、そして現代の大衆文化が交錯する興味深い場所であり続けています。

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