ナッソー襲撃 (1720年)

ナッソー襲撃（ニュープロビデンスの戦い）

1720年2月、バハマ諸島にあるグレートブリテン王国領ナッソーにおいて、四国同盟戦争の一環として、スペイン軍による攻撃が行われました。この軍事行動は、一般に「ナッソー襲撃」、あるいは「ニュープロビデンスの戦い」として知られています。

戦争の背景とナッソーの状況

この襲撃は、イギリス、フランス、オーストリア、ネーデルラント連邦共和国がスペインに対抗した四国同盟戦争の最中に発生しました。バハマ諸島の中心地であるニュープロビデンス島のナッソーは、戦略的に重要な拠点であり、以前からスペインによる侵攻の脅威に晒されていました。実際、この脅威は襲撃の前年から島を覆っており、その緊張状態から、島の植民活動はすでに停止を余儀なくされていました。当時のナッソーには、海賊掃討で知られるウッズ・ロジャーズが総督として赴任しており、島の防御体制の構築に努めていました。彼は防御の要として、50門の砲台を備え、250名の駐留軍が配備されたナッソー砦を建設させていました。島の防衛力は、この駐留軍に加え、総督の指揮下にある約500名の民兵によって支えられていました。

スペイン軍の計画と障害

スペイン軍を率いたのはフランシスコ・コルネホで、彼の指揮下には約1,200名の兵力が集結しました。この部隊は主にキューバから編成された兵士で構成されていました。スペインはナッソーへの本格的な侵攻計画を立てていましたが、実行に移す前にいくつかの障害に直面しました。一つは、ナッソー沖にイギリス海軍の艦船が存在していたことです。具体的には、ナッソー総督の旗艦である32門艦「デリシア」と24門フリゲート艦「フランバラ」が警戒にあたっており、これがスペイン艦隊の動きを牽制しました。もう一つの大きな問題は、ナッソー港の地理的な条件でした。スペイン軍が用いる大型の戦艦は、その深い喫水のため、ナッソーの浅い港内を安全に航行することが極めて困難だったのです。これらの要因が重なり、スペイン軍の当初の侵攻計画は延期せざるを得なくなりました。

襲撃の経過

港への直接進入が難しいと判断したコルネホは、ナッソー市を迂回する戦術を選択しました。スペイン軍は、ナッソー市の東に位置するホーグス島に兵士を上陸させました。上陸部隊は3つの縦隊に分かれて行動を開始しました。彼らはホーグス島で略奪を行いましたが、その行動は長続きしませんでした。ウッズ・ロジャーズ総督が組織した約500名の民兵隊が迅速に展開し、スペインの上陸部隊を追い払うことに成功したのです。スペイン艦隊はその後、ナッソー近海にしばらく留まっていましたが、目立った軍事行動を起こすことなく、やがて撤退しました。

結果と影響

この襲撃において、スペイン軍はナッソーの占領という主目的を達成することはできませんでした。しかし、僅少な損害と引き換えに、ホーグス島での略奪によって約100名の奴隷を獲得しました。一方、ナッソーを防衛したイギリス側は、直接的な軍事的敗北を喫したわけではありませんでしたが、この事件は当時の総督であったウッズ・ロジャーズに大きな負担をかけることになりました。ロジャーズは、島の守備を強化するために私財を投じており、この財政的な負担に加え、絶え間ない脅威とそれに伴うストレスから、心身の健康を害していました。彼は駐留軍への給与の支払いにも窮するなど、厳しい状況に置かれていました。襲撃後間もなく、ロジャーズは総督の任を辞し、イギリスへと帰還しました。彼の私財を投じた防衛努力は島の安全に貢献したものの、その個人的な犠牲は大きく、彼に深い不安と憂鬱をもたらしたと記録されています。四国同盟戦争自体は、同年中にハーグ条約の締結をもって終結を迎えました。ナッソー襲撃は、この戦争におけるカリブ海での小規模な衝突の一つであり、スペインのバハマ支配の試みが失敗に終わった事例として位置づけられますが、当時の総督のキャリアに直接的な影響を与えた出来事でもありました。

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