ナノセイルD

ナノセイルD（NanoSail-D）

ナノセイルDは、アメリカ航空宇宙局（NASA）のエイムズ研究センターによって開発された、革新的なナノサット（超小型衛星）です。その主たる目的は、宇宙空間でソーラーセイル（太陽帆）を精密に展開する技術を実証することにありました。この技術は、将来、推進剤をほとんど使用せずに宇宙空間を航行するための鍵となる可能性があります。

最初のナノセイルDは、予期せぬ打上げ失敗により軌道に到達することなく失われましたが、その後に開発された代替機であるナノセイルD2は、無事宇宙空間への投入に成功し、計画されていた実験を実施することができました。

機体の特徴と仕様

ナノセイルDは、超小型衛星の標準規格であるCubeSatを3つ連結した、ユニークな形状をしています。そのサイズは約30 cm × 10 cm × 10 cmと非常にコンパクトで、重量もわずか約4 kgに抑えられています。

この小型衛星の核心となるのは、展開されることで大きな表面積を生み出すソーラーセイルです。ナノセイルDに搭載されていたセイルは、展開後に10平方メートルもの面積を持つ設計でした。太陽光の光子圧を受けるこの大きな「帆」によって、衛星は軌道制御や推進を行うことを目指していました。

ナノセイルDの開発および試験は、わずか4ヶ月という極めて短期間で行われました。この迅速な開発体制は、小型衛星プロジェクトの柔軟性と効率性を示す事例とも言えます。

最初の打上げとその失敗

ナノセイルDの最初の機体は、2008年8月3日午前3時34分（協定世界時UTC）に打ち上げられました。打上げに使用されたのは、スペースX社が開発したファルコン1ロケットです。これは、ファルコン1ロケットにとって通算3度目の飛行でした。この時の打上げには、ナノセイルDを含め、合計4機の小型人工衛星がペイロードとして搭載されていました。

しかし、打上げから約2分40秒が経過し、ロケットの第1段エンジンが停止して分離する際に、不測の事態が発生しました。第1段にわずかに残っていた推力によって、分離したはずの第1段が、飛行を続ける第2段に衝突してしまったのです。この衝撃により、ロケットは本来予定されていた軌道から大きく逸脱してしまいました。

結果として、ファルコン1ロケットは、搭載していた全てのペイロードと共に地球の軌道に到達することなく、太平洋上へ落下し、最初のナノセイルDは失われることとなりました。

失敗に終わった軌道上計画

もし打上げが成功していれば、ナノセイルDは高度330 kmから685 kmの間の低軌道に投入され、傾斜角9度の軌道を周回する予定でした。軌道上でのミッション期間は約7日間が計画されており、衛星の電源が切れるまでの間に、ソーラーセイルの展開実験を中心とした運用が行われるはずでした。

しかし、前述のロケット打上げ失敗により、これらの計画は実行されることなく終わりました。

代替機ナノセイルD2の成功

最初のナノセイルDの喪失という困難にもかかわらず、NASAは開発を諦めませんでした。代替機であるナノセイルD2が開発され、2010年に別の機会に無事打ち上げられました。ナノセイルD2は軌道上でソーラーセイルの展開に成功し、この技術の実証に大きく貢献しました。これは、将来的な宇宙探査において、クリーンで持続可能な推進方法として期待されるソーラーセイル技術の研究開発における重要な一歩となりました。

ソーラーセイル技術への貢献

ナノセイルD（およびD2）のような小型衛星によるソーラーセイル展開実験は、この革新的な推進技術の実用化に向けた重要なステップです。ソーラーセイルは、太陽光の光子圧を推進力として利用するため、燃料を搭載する必要がありません。これにより、長期間にわたるミッションや、遠距離への探査が可能になると期待されています。

世界各国でもこの技術の研究が進められており、日本の宇宙航空研究開発機構（JAXA）が開発したソーラーセイル実証機IKAROSなどが知られています。

ナノセイルDの最初の挑戦は失敗に終わりましたが、その経験と代替機D2の成功は、今後のソーラーセイル技術開発にとって貴重な礎となっています。

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