ナフタラン

ナフタラン：癒しの石油が湧き出るアゼルバイジャンの療養都市

ナフタランは、アゼルバイジャンの首都バクーから西へ約330km、ギャンジャから約50kmの場所に位置する都市です。ここは、古くから医療目的で使用される石油が採掘されることで知られ、アゼルバイジャン国内でも有名な療養地となっています。

伝説と歴史

ナフタランの名の由来には、興味深い伝説が残されています。古代、キャラバンが衰弱したラクダを湖のほとりに置き去りにしたところ、再び訪れた際にそのラクダが元気を取り戻し生き延びていたというのです。キャラバンは湖の油分に傷を癒す力があることを発見し、その油を故郷へ持ち帰りました。この出来事から、不思議な油が採取できる湖周辺は「油のある地域」を意味する「ナフタラン」と呼ばれるようになったと言われています。

12世紀には詩人ニザーミーが、13世紀にはマルコ・ポーロがナフタランの油について言及しており、その存在は古くから知られていました。1868年にはドイツ企業がナフタランで石油の採掘を開始。当初、ナフタランの石油は燃えないため、燃料としての利用は難しいと考えられていました。しかし、その治療効果に着目した人々が薬用としての研究を進め、「ナフタラン軟膏」が開発されました。この軟膏は、傷や皮膚病に対する高い治癒能力が評価され、ドイツ本国のみならず、欧米諸国や日本など世界中に流通するほどの人気を博しました。日露戦争時には、日本軍の医療袋からナフタラン軟膏が発見されたという記録も残っています。

療養地としての発展

1967年4月28日、ナフタランは市へと昇格しました。アゼルバイジャンが独立を果たした後、ナフタランは原油を使った療養風呂で世界的に知られるようになり、多くの観光客が訪れるようになりました。2019年には、国内外から約4万人もの人々がナフタランを訪れ、その癒しの力を体験しています。

地理と近年の状況

行政上、ナフタランは県に属さない特別市であり、ゴランボイ県に囲まれています。また、ナフタランはアゼルバイジャンからの分離独立を主張するアルツァフ共和国（ナゴルノ・カラバフ）との「国境」に程近い場所に位置しており、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争では、アルメニア軍による砲撃で死者も出ています。

ナフタランは、その特異な歴史と癒しの力を持つ石油によって、世界中の人々を魅了し続けています。紛争の影響を受けながらも、療養地としての地位を確立し、多くの観光客が訪れるこの地は、アゼルバイジャンの重要な観光資源として、今後も発展していくことが期待されます。

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