ナブッコ

ヴェルディの傑作オペラ『ナブッコ』

『ナブッコ』（Nabucco）は、ジュゼッペ・ヴェルディが作曲した全4幕からなるオペラで、原題は『ナブコドノゾール』（Nabucodonosor）です。旧約聖書の『エレミヤ書』と『ダニエル書』を題材としており、1842年にミラノ・スカラ座で初演されました。

概要

『ナブッコ』はヴェルディにとって3作目のオペラであり、初めて大成功を収めた出世作として知られています。特に第3幕の合唱「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って（Va, pensiero）」は、今日イタリアにおいて国歌に匹敵するほど有名な旋律です。ナブッコとは、ネブカドネザル2世として知られる古代バビロニアの王の名前です。

成立の背景

オペラ作曲の経緯は、意外なほど詳細が分かっていません。通説によれば、2作目のオペラが失敗し、私生活でも不幸が重なったヴェルディは作曲をやめようと考えていました。そんな彼に、スカラ座の支配人バルトロメオ・メレッリが、テミストークレ・ソレーラが作成した台本を紹介しました。その台本は、当初オットー・ニコライに提供されましたが、「作曲に値しない」として返却されたものでした。ヴェルディは1841年秋頃までに作曲を完成させました。

ソレーラの台本は、旧約聖書の記述、それを戯曲化したフランス語の舞台劇、そしてその戯曲に基づいたバレエ音楽に依拠しています。特にバレエはスカラ座で上演されており、舞台装置や衣装などがオペラの初演時に流用されたと言われています。

初演とその後

1842年3月9日、ミラノ・スカラ座で初演が行われました。題名役のナブッコにはジョルジョ・ロンコーニ、アビガイッレ役にはジュゼッピーナ・ストレッポーニといった実力派歌手が配役されました。初演は大成功を収め、ヴェルディはオペラ作曲家として評価を確立しました。

登場人物

ナブコドノゾール王（ナブッコ）：バビロニアの王（バリトン）
イズマエーレ：エルサレム王の甥（テノール）
ザッカリーア：ヘブライ人の大祭司（バス）
アビガイッレ：ナブッコの娘とされているが、実際は女奴隷との子（ソプラノ）
* フェネーナ：ナブッコの娘で、イズマエーレと恋仲（ソプラノ）

あらすじ

物語は紀元前587年のエルサレムとバビロンを舞台に展開されます。

バビロニア王ナブッコはエルサレムを攻撃しようとしています。ヘブライ人はナブッコの娘フェネーナを人質に取っていますが、フェネーナはエルサレム王の甥イズマエーレと恋仲です。ナブッコの娘アビガイッレもイズマエーレに想いを寄せており、彼に取引を持ちかけますが拒否されます。ナブッコは神殿を破壊し、町を制圧します。

アビガイッレは出自の秘密を知り、王位を奪おうとします。一方、フェネーナはユダヤ教に改宗します。ナブッコは神を冒涜したことで精神錯乱状態となり、アビガイッレが王位を奪います。アビガイッレは異教徒の処刑を命じ、ナブッコの娘フェネーナも処刑対象となります。ヘブライ人たちは祖国への想いを歌い、有名な合唱曲「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」が歌われます。

監禁されたナブッコは神に許しを請い、忠臣によって解放されます。ナブッコはフェネーナを救い、バビロニアの神々の偶像を破壊します。そして、ヘブライ人を解放し、祖国への帰還を宣言します。アビガイッレは自害し、ナブッコは「王の中の王」として讃えられます。

「行け、我が想いよ」

オペラ『ナブッコ』で最も有名な合唱曲「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」は、『旧約聖書』の『詩篇』137を題材にした歌です。歌詞は故郷を失ったヘブライ人の嘆きを表現しており、イタリア国民の心に深く響いています。

上演史

『ナブッコ』は初演後、イタリア各地で再演され、国外でも広く上演されました。1843年にはウィーン、1845年にはパリ、1848年にはニューヨークで上演されています。日本では1971年に演奏会形式で初演されました。

今日、「行け、我が想いよ」はイタリア国民にとって「第二の国歌」とも言える存在です。ヴェルディの葬儀では、参列者が自然とこの歌を歌い、作曲家を偲びました。また、スカラ座の再開記念コンサートでも演奏され、北部同盟の党歌としても用いられています。

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