ナメストニチェストヴォ

ナメストニチェストヴォは、帝政ロシア時代に用いられた行政区画の名称です。この制度は、皇帝が任命したナメストニク（総督）を長とする行政単位でした。この行政区分の導入は、エカテリーナ2世の治世下における地方行政改革の一環として実施されました。

ナメストニチェストヴォ導入の背景

エカテリーナ2世は、プガチョフの乱が急速に拡大した原因を地方行政の不備にあると認識し、地方行政改革に着手しました。その具体的な改革として、従来の地方行政区分をより細分化し、全国を50県、約250郡に再編しました。この新たな行政区分に対して、「ナメストニチェストヴォ」という名称が用いられることとなりました。また、複数のナメストニチェストヴォを統括する総督の任命や、1719年以降用いられていたプロヴィンツィヤ（県と郡の中間に位置する行政区分）の廃止も同時に行われました。

この行政改革の目的は、地方の貴族を組織して地方行政と裁判に携わらせることにあり、ロシア史上初の地方自治の始まりとも言えます。これらの改革は、1775年11月に発布された「全ロシア帝国の県行政のための基本法」に基づいて実施されました。

ナメストニチェストヴォの短命と復活

しかし、エカテリーナ2世の死後、後を継いだパーヴェル1世によって1796年にナメストニチェストヴォ制度は廃止され、従来のグベールニヤ制に戻されました。このため、ナメストニチェストヴォは短期間でその役割を終えることとなりました。ヨーロッパ・ロシアではその後、ナメストニチェストヴォが設置されることはありませんでしたが、例外的にコーカサス地方では1844年から1883年、そして1905年から1917年にかけて「カフカス・ナメストニチェストヴォ」が設置されました。さらに、極東ロシアにおいても1903年から1905年の間、「ダリネヴォ・ヴォストーカ・ナメストニチェストヴォ」（極東ナメストニチェストヴォ）が置かれました。

ナメストニチェストヴォの訳語と解釈

ナメストニチェストヴォは、直訳すると「総督府」となることもありますが、日本語の文献ではエカテリーナ2世による1775年の行政改革によって創設された行政区分を「県」と訳す場合があります。この点は、文献を読む際に注意が必要です。ナメストニチェストヴォは、ロシア帝国の地方行政制度を理解する上で重要な要素の一つであると言えるでしょう。この制度の変遷は、ロシア帝国の政治体制と地方行政の複雑な歴史を反映しています。

まとめ

ナメストニチェストヴォは、帝政ロシアにおける重要な行政区画であり、エカテリーナ2世の改革によって導入されました。短期間で廃止されたものの、特定の地域で再び設置されるなど、ロシアの地方行政制度の変遷を物語る上で重要な役割を果たしました。その歴史的背景と変遷を理解することは、ロシア史をより深く理解するための一助となるでしょう。

もう一度検索