ナラノヤエザクラ

奈良の八重桜：歴史と特徴、そして現代

奈良の八重桜（ナラノヤエザクラ、学名: Prunus verecunda 'Antiqua'）は、カスミザクラを起源とする栽培品種の八重桜です。他の八重桜と比べて開花が遅く、4月下旬から5月上旬にかけて、比較的控えめな花を咲かせます。その清楚な美しさは、古くから人々の心を魅了し、奈良の文化と深く結びついてきました。

歴史の舞台：いにしえの都を彩る桜

ナラノヤエザクラは、平安時代の歌人、伊勢大輔の歌によって有名になりました。『詞花和歌集』に収められた「いにしへの奈良のみやこの八重ざくらけふ九重ににほひぬるかな」は、古都奈良の風情を今に伝える名歌として知られています。この歌が詠まれた時代から、奈良の八重桜は人々に愛され、その美しさが詩歌や文学作品に度々登場してきました。江戸時代には、『奈良名所八重桜』といった書物にも記され、その存在は広く知られていました。しかし、これらの文献の中には、歴史的正確性に欠ける記述もあることに注意が必要です。

再発見と天然記念物指定

近代において、ナラノヤエザクラの研究は、植物学者三好学らによって進められました。1922年、三好は東大寺知足院周辺で特徴的な八重桜を発見し、その後の研究を経て、この桜がナラノヤエザクラであると確認されました。知足院のナラノヤエザクラは、1923年に国の天然記念物に指定されました。これは、ナラノヤエザクラの稀少性と、歴史的・文化的価値の高さを示す重要な出来事です。

奈良を象徴する花

ナラノヤエザクラは、奈良を代表する花として、1968年には奈良県の県花、1998年には奈良市の市花に指定されました。奈良市の市章にも、ナラノヤエザクラがデザインされています。このことは、ナラノヤエザクラが、奈良のシンボルとしての地位を確立していることを示しています。

ナラノヤエザクラの生物学的特徴

ナラノヤエザクラは落葉高木で、樹勢が弱く、寿命も短いのが特徴です。また、繁殖力が非常に弱く、増やすのが難しい種類でもあります。

芽: 赤紫がかった褐色の芽は、最終的に5～9cmの長さ、2.5～5cmの幅に成長した葉になります。

葉: 葉は長楕円状倒卵形で、先端は尾状鋭尖形、基部は円形または心臓形をしています。葉の縁には重鋸歯があり、表側は暗い黄緑色で光沢がなく、まばらに毛が生えています。葉の裏側は白っぽい黄緑色で、葉脈に毛が生えています。葉柄には開出毛があり、上端近くに濃い紅紫色の蜜腺があります。

花: 花序は2～4花からなる散房花序です。花弁は22～79枚（文献によって異なる）と多数あり、楕円形で先端が深く裂けています。花弁の色は淡い紅色で、八重桜としては小ぶりで清楚な印象を与えます。雄しべは10～42本（文献によって異なる）、雌しべは1～4本あります。開花時期は4月下旬から5月上旬で、ゴールデンウィーク頃に満開を迎えます。

果実: ナラノヤエザクラは、他の八重桜と異なり、果実がよく実ります。しかし、若い果実は枝から落ちることが多く、成熟するまで残る果実は珍しいです。果実は黒く熟し、苦味と酸味があります。複数の雌しべがあるため、複数の果実がくっついた状態になることも多いです。

系統と学名

ナラノヤエザクラは、カスミザクラの重弁化変種とされています。学名はPrunus verecunda 'Antiqua'で、'Antiqua'は「古代の」という意味を持ちます。

まとめ

ナラノヤエザクラは、その歴史、美しさ、そして生態学的特性から、奈良を代表する貴重な桜です。その希少性と文化的意義から、大切に保護していくことが重要です。今後も、研究や保全活動を通じて、この美しい桜が未来へと受け継がれていくことを願っています。

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