ナンマトル

ナンマドル：太平洋に浮かぶ巨石の謎

ナンマドル（Nan Madol）は、ミクロネシア連邦ポンペイ州に位置する、100以上の人工島からなる遺跡群です。その規模はオセアニア最大とされ、「太平洋のベニス」や「ミクロネシアのアンコールワット」などとも称されています。玄武岩の枠組みにサンゴや砂を充填して造られた人工島は、水路で仕切られ、独特の景観を呈しています。

壮大な建造物群と未解明の技術

人工島上には、王族や祭司の住居、墓所、儀式場、工房など、様々な役割を持つ巨石建造物が立ち並びます。数トンから数十トンにも及ぶ玄武岩柱を積み上げたこれらの建造物は、高度な技術を駆使して造られたと考えられますが、その具体的な手法は未だ解明されていません。金属器を持たなかったとされる当時の技術水準から、その建設方法は大きな謎となっています。

伝説と歴史の交錯

ナンマドルの起源は、伝説によればオロシーパとオロショーパという兄弟の魔術師に遡ります。彼らは西方の伝説の地からポンペイ島に渡り、数々の試練を乗り越えてナンマドルを建設したと伝えられています。この伝説は、シャウテレウル王朝という強大な王朝の成立と繁栄、そしてその滅亡といった歴史と密接に絡み合っています。王朝は繁栄期には25,000人もの人口を誇りましたが、過剰な貢納や労役が原因で衰退し、1500～1600年頃には滅亡したと考えられています。

学術的な検証

考古学的調査によると、ナンマドルへの人の定住は紀元前後頃からで、メラネシアからの移住者、あるいはラピタ文化との関連が指摘されています。人工島の建設は500年頃から始まり、1000年頃からは本格化しました。シャウテレウル王朝成立とほぼ同時期です。王朝による儀式は1200～1300年頃から始まったと考えられ、その宗教的な権力基盤を象徴する遺跡群として、ナンマドルは発展していきました。

石材の産地特定や運搬方法、建造物の建設手法などは、近年蛍光X線元素分析法など最新の技術を用いて研究が進められていますが、依然として未解明の部分が多いです。巨大な石材をどのように運搬し、積み上げたのかは、大きな謎となっています。

他の遺跡との関係

ナンマドルは、ミクロネシアにおける他の遺跡、特にコスラエ島のレラ遺跡との関連性が指摘されています。レラ遺跡もまた、柱状玄武岩を用いた巨石文化遺産であり、ナンマドルと類似した点が多く見られます。ただし、レラ遺跡の建設はナンマドルよりも後の時代と考えられていることから、両者の関係についてはさらなる研究が必要です。

また、ポリネシアの儀式遺跡との関連性も示唆されています。カヴァという儀式用の植物の使用がナンマドルとポリネシアで共通しているなど、文化交流があった可能性が研究されています。

世界遺産登録と危機遺産

ナンマドルは、2016年にUNESCOの世界遺産に登録されました。しかしながら、水路の埋まりやマングローブの繁茂など、遺跡の保存状態は危機に瀕しており、同時に危機遺産リストにも登録されています。日本を含む国際的な協力の下、保存と修復に向けた取り組みが進められています。

伝説と謎に満ちた遺跡

ナンマドルは、ムー大陸の首都説や竜宮城のモデル説など、様々な伝説と結び付けられてきました。しかしながら、これらの説は考古学的な根拠に乏しく、否定されています。

現在も謎が多いナンマドル遺跡ですが、その壮大な規模と精緻な技術、そして数々の伝説は、人々を魅了し続けています。今後も更なる研究と保存活動が期待されています。

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