ナーチトゥン

ナーチトゥン：古代マヤの謎めいた遺跡

ナーチトゥン（Naachtún）は、グアテマラのペテン県に位置する古代マヤの遺跡で、メキシコ国境に近い場所にあります。この大規模な遺跡は、21世紀に入ってから本格的な発掘が始まりました。ナーチトゥンという名称は「遠い石」を意味し、その名の通りアクセスが非常に難しい場所にあります。そのため、発見者であるシルヴェイナス・モーリーがこの名を付けました。

遺跡の位置と重要性

ナーチトゥンはエル・ミラドールから約20キロメートル東に位置し、古典期後期にはティカルとカラクムルというマヤ文明の二大国の中間に立地していました。このことから、ナーチトゥンは戦略的に極めて重要な役割を果たしていたと考えられています。ナーチトゥンの建物は、ティカル、カラクムル、リオ・ベック様式の3つの異なる文化的影響を受けており、建築様式の独自性を示しています。

防御機構と都市発展

遺跡周辺には高達4メートルにも及ぶ防壁が築かれており、長年にわたり要塞都市として機能していたことが示唆されています。ナーチトゥンの発展は、先古典期には小さな村に過ぎなかったものの、エル・ミラドールの崩壊後の150年頃に都市として成長を開始しました。遺跡は東西に3つのグループに分かれており、それぞれが異なる時期に中心地としての役割を果たしました。具体的には、150年から250年まではグループCが、250年から550年まではグループAが、そして550年から850年まではグループBが中心として機能していました。

歴史的背景

ナーチトゥンは、378年には中央マヤ低地がテオティワカンによるシヤフ・カックの侵略を受けたことが記録されています。この時、ナーチトゥンはシヤフ・カックに従属していたことが、新たに発見された石碑24によって明らかとなりました。さらに、ナーチトゥンは5世紀後半から6世紀初頭にかけてティカルと強い同盟を結んでいたと考えられ、その後はカラクムルとの同盟に移行します。しかし、8世紀にはカラクムルとの影響関係が薄れていきました。この時期のグループBの石碑18には、ナーチトゥンの女王がカラクムルの捕虜を踏みつける図が描かれています。

放棄とその理由

他のペテン地方の都市と同様、ナーチトゥンは850年以前に放棄されたとされ、その理由は旱魃か戦争の影響によるものと考えられていますが、はっきりとした原因は不明です。

マーサルとの関係

1999年に考古学者ニコライ・グルーベがナーチトゥンを訪れ、紋章文字の断片を発見しました。この発見により、ナーチトゥンは古代にマーサルまたはマスールと呼ばれていたのではないかという説が浮上しましたが、確証は得られていません。また、別のヒスイの耳飾りには、マーサルがシヤフ・カックやテオティワカンの王族に従属していたことが記されています。このようにナーチトゥンの歴史はマーサルと深く関わっている可能性があります。

調査の歴史

ナーチトゥンは1922年にモーリーによって発見されましたが、その辺鄙な立地のために20世紀中はほとんど調査が進みませんでした。1970年代にはEric von Euwが訪れ、1990年代にはグルーベによる石碑の記録が行われました。2002年以降は、カルガリー大学のキャスリン・リーズ＝テイラーらによって本格的な調査が続けられています。

このように、ナーチトゥンは古代マヤ文明を知る上で興味深い遺跡であり、今後の調査によってさらなる詳細が明らかになることが期待されます。

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