ニキアス

ニキアス：ペロポネソス戦争を彩った将軍と政治家

ニキアス（紀元前470年 - 紀元前413年）は、古代アテナイを代表する将軍（ストラテゴス）であり、政治家でした。ペロポネソス戦争において重要な役割を果たした人物として知られています。ラウリオンの銀山を所有する名家に生まれ、莫大な富を相続しました。

政治家としてのニキアス

ニキアスは、ペリクレス率いる民衆派とは対照的に、貴族派の中心人物として活躍しました。ペリクレスの死後、アテナイの政治の中枢に位置するようになります。アリストテレスはニキアスをアテナイを代表する市民の一人として評価しています。

当時のアテナイでは、民衆派の指導者クレオンが台頭していましたが、ニキアスはクレオンの好戦的な政策に反対し、スパルタとの和平を模索しました。彼の穏健な政治姿勢は民衆からの支持を集め、クレオンとは対照的な存在として注目を集めました。

軍事指揮官としてのニキアス

ニキアスは将軍としても優れた能力を発揮しました。紀元前427年にはミノア島を攻略し、翌年にはミロス島での戦闘にも参加、タナグラの戦いで勝利を収めました。また、キュテーラ攻略にも参加し、紀元前423年にはスパルタとの1年間の休戦条約締結にも尽力しています。

ニキアスの最も大きな功績の一つは、「ニキアスの和約」と呼ばれるアテナイとスパルタ間の和平条約の締結です。紀元前421年に成立したこの条約は、長引く戦争に終止符を打つためにニキアスが中心となって推進しました。和平交渉において、ニキアスは最も積極的な役割を果たした人物でした。

しかし、ニキアスの経歴は平和的な終焉とは程遠いものでした。紀元前416年、ニキアスはアルキビアデス、ラマコスと共にシケリア遠征の司令官に任命されました。しかし、この遠征は最初からニキアスの反対がありました。遠征は失敗に終わり、ニキアスはシュラクサイで捕虜となり、処刑されました。

シケリア遠征と悲劇的な最期

シケリア遠征は、アテナイにとって大きな痛手となりました。アルキビアデスは遠征前に本国へ召還され、ラマコスも戦死、ニキアスはシュラクサイ包囲中にスパルタ・シュラクサイ連合軍の攻撃を受け、壊滅的な敗北を喫しました。ニキアスはデモステネスと共に投降しますが、その後処刑されました。この悲劇的な最期は、トゥーキュディデースによって記録され、後世の歴史家にも大きな衝撃を与えました。

ニキアスの評価

歴史家トゥーキュディデースは、ニキアスの最期を悼み、その人となりについて言及しています。プラトンの『ラケス』では、理知と判断力の象徴として描かれています。ニキアスは、コリントス人を待ち伏せで撃破したり、シュラクサイの騎兵の進路に棘をまくなど、周到さと機転に富んだ作戦を成功させています。しかし、紀元前425年にはクレオンに指揮権を譲渡し、クレオンが捕虜を連れて凱旋したことに対し、アテナイ市民から不評を買うという一面もありました。アリストパネスの喜劇『鳥』でもその点が揶揄されています。

ニキアスは、穏健な政治家であり、優れた軍事指揮官でもありました。しかし、彼の生涯は、成功と悲劇が複雑に絡み合ったものでした。シケリア遠征の失敗と悲劇的な最期は、彼の名を歴史に刻み込み、後世に大きな影響を与え続けています。彼の功績と失敗は、ペロポネソス戦争という激動の時代を理解する上で貴重な手がかりとなります。

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