ニケフォロス2世フォカス

ニケフォロス2世フォカスは、913年に生まれ、969年12月10日に没した東ローマ帝国マケドニア王朝の皇帝です。彼は、軍人としての卓越した能力を発揮し、帝国の版図を広げたことで知られています。彼の治世は、帝国にとって重要な転換期であり、その功績と悲劇的な最期は、後世に大きな影響を与えました。

生涯

皇帝即位以前

ニケフォロス2世フォカスは、カッパドキアの軍事貴族であるフォカス家の出身です。彼の家系は、祖父の代から東ローマ帝国に仕え、軍人として活躍していました。ニケフォロス自身も、帝国中央軍（タグマ）の総司令官であるスコライ軍団の司令長官として、対イスラム戦で功績を挙げました。特に、クレタ島の奪回は、東地中海の制海権を回復する上で重要な出来事でした。この戦功により、彼は国内で高い名声を得ました。

皇帝即位

963年、ロマノス2世皇帝が死去すると、後継者のバシレイオスが幼少であったため、権力闘争が勃発しました。ニケフォロスは、軍事力を背景に、ロマノス2世の側近であった宦官ヨセフ・ブリンガスとの間で争いを繰り広げました。首都コンスタンティノポリスの市民は、ニケフォロスを支持し、市街戦を経て彼が実権を握ることになりました。彼は、ロマノス2世の皇后であるテオファノと結婚し、バシレイオスとコンスタンティノスを共同皇帝として、自らは皇帝ニケフォロス2世として即位しました。さらに、実父のバルダス・フォカスを副帝に任命し、権力基盤を固めました。

イスラーム勢力との戦い

皇帝となったニケフォロスは、積極的な対外政策を推進しました。彼は、重装騎兵軍団を組織し、イスラーム勢力との戦いを続け、アレッポやタルソスなどを占領しました。さらに、シリアのアンティオキアを奪回し、帝国領を拡大しました。アンティオキアは、かつてのキリスト教五大本山のひとつであり、その回復はコンスタンティノポリスの市民を大いに歓喜させました。彼は、凱旋する際、市民から熱烈な歓迎を受け、その功績を讃えられました。また、敬虔なキリスト教徒であったニケフォロスは、現在まで続くアトス山の修道院共同体を後援しました。

しかし、長年の戦いによる疲弊と、東方の風習を色濃く残していたことから、首都の市民からは次第に疎まれるようになりました。教会が世俗に権力を伸ばそうとしていることに反感を抱き、聖職者に清貧を求めたことで、教会からも反感を買いました。さらに、連年の戦争による軍費調達のために、重税を課し、貨幣の悪鋳を行ったことで、国民の不満は高まりました。シチリア遠征の失敗は、これらの不満をさらに増大させ、ニケフォロスへの反発は貴族や軍人層にまで広がりました。

最期

ニケフォロスは、首都の市民や教会だけでなく、皇后のテオファノからも嫌われるようになりました。テオファノは、ニケフォロスの甥であるヨハネス・ツィミスケスと恋仲になり、ニケフォロスの暗殺を計画しました。969年12月10日から11日にかけての深夜、ヨハネスらはテオファノの手引きで宮殿に侵入し、寝室で寝ていたニケフォロスを襲撃しました。イコンの前の床で寝ていたニケフォロスは、ヨハネスに斬りつけられ、命を落としました。彼の最期は、彼の治世の激しさを象徴するかのようでした。ニケフォロスを暗殺したヨハネスは、皇帝の位に就き、ヨハネス1世ツィミスケスとして知られるようになりました。

ニケフォロス2世フォカスは、軍事的な才能を発揮し、東ローマ帝国の版図を広げましたが、その強硬な政策は、国内に多くの不満を生み出し、悲劇的な結末を迎えました。彼の生涯は、ビザンツ帝国の盛衰を象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

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