ニコライ・ルビンシテイン

ニコライ・グリゴーリエヴィチ・ルビンシテイン（1835年6月2日 - 1881年3月23日）は、ロシアの音楽教育者、ピアニスト、作曲家、そして指揮者として多岐にわたる才能を発揮しました。兄であるアントン・ルビンシテインも著名な音楽家であり、ニコライはチャイコフスキーの親友としても知られています。日本では、姓がドイツ風に「ルービンシュタイン」と表記されることもあります。彼はユダヤ系の出自です。

ニコライはモスクワで、父親が経営する小さな工場のある家庭に生まれました。幼少期から母親の手ほどきで音楽に親しみ、その才能を開花させていきます。1866年9月1日には、モスクワ音楽院を創設し、初代院長としてその運営に尽力しました。

生前は、その卓越したピアノ演奏で高い評価を受け、当代を代表するピアニストの一人とみなされていました。しかし、兄アントンの情熱的で燃え上がるような演奏スタイルとは対照的に、ニコライの演奏は抑制の効いた古典的なものでした。音楽的な価値観も、フランツ・リストよりもクララ・シューマンに近いものであったと評されています。ミリイ・バラキレフは、代表作である《イスラメイ》をニコライに献呈し、兄アントンも二台ピアノのための《幻想曲 ヘ短調》作品73をニコライに捧げています。

モスクワ音楽院院長として多忙な日々を送る中、ニコライはチャイコフスキーに《ピアノ協奏曲第1番》の作曲を勧めましたが、完成した作品に対する彼の当初の反応は冷淡でした。チャイコフスキーの書簡によると、ニコライは作品を書き直すことを初演の条件として提示したとされています。この要求を拒否したチャイコフスキーは、初演をハンス・フォン・ビューローに委ね、彼にこの作品を献呈しました。しかし、後にニコライはこの作品の価値を認め、モスクワ初演では指揮を担当し、その後は自身もピアノ独奏を行うようになりました。現在広く知られている版は改訂版であり、初版はドーヴァー・パブリケーションズによって復刻されています。後にチャイコフスキーは《ピアノ協奏曲第2番》をニコライに献呈し、ニコライも今度はこの作品を高く評価しました。しかし、ニコライは1881年3月23日にパリで腸結核のために亡くなり、自身の手で初演を果たすことは叶いませんでした。初演は翌1882年に兄アントンの指揮、セルゲイ・タネーエフのピアノ独奏によって行われました。

ニコライの死後、チャイコフスキーは彼の死を悼み、《悲しみの三重奏曲 イ短調》を作曲し、「偉大な芸術家の思い出に」と献辞を捧げました。この室内楽曲を作曲するというロシア音楽の伝統は、アントン・アレンスキー、ラフマニノフ、そしてショスタコーヴィチやシュニトケへと受け継がれていきました。

作曲家としてのニコライは、多くの作品を残してはいませんが、特に知られているのは《タランテラ ト短調》と《シューマンの主題による幻想曲》の2曲です。これらの作品は、彼の音楽的な才能と深い理解を示すものとして、今日でも評価されています。

ニコライ・ルビンシテインは、ピアニスト、教育者、そして音楽院の創設者として、ロシア音楽史にその名を刻んでいます。彼の音楽への貢献は、後世の音楽家たちに大きな影響を与え続け、彼の遺産は今日もなお輝きを放っています。

もう一度検索