ニコラ・サンソン

17世紀フランスにおいて、地理学と地図製作の分野で傑出した存在であったのが、ニコラ・サンソン（Nicolas Sanson、1600年 12月20日 - 1667年 7月7日）です。彼はルイ13世、そしてルイ14世という2代のフランス国王に仕え、その専門知識を宮廷で活かしました。その業績から、後世には「フランスの地図製作の父」と称されることになります。

生涯

サンソンは1600年 12月20日、フランス北部ピカルディ地方のアブヴィルに誕生しました。彼の家系は、この地に古くから根付いたスコットランド系の家柄でした。少年期にはアミアンのイエズス会系学校で学び、基礎的な教養を身につけました。

彼の才能が早くから開花したのは、1627年、わずか18歳の頃のことです。古代ガリアの地図を作成した（または製作に着手した）ことが、当時のフランスの権力者であったリシュリュー枢機卿の目に留まりました。この出会いが契機となり、サンソンは国王直属の地理学者としての道を歩み始めます。

宮廷に仕えることになったサンソンは、国王たちに地理学を教授するという重要な役割を担いました。ルイ13世がアブヴィルを訪れた際のエピソードは有名です。国王は町が用意した公式の宿泊施設ではなく、当時要塞の建設に関わっていたサンソンの自宅に客として滞在することを望みました。この出来事の後、国王はサンソンを国務大臣に任命し、その地位をさらに高めました。

サンソンの地図製作活動は精力的に行われました。1627年には、フランスの郵便経路を示す最初の重要な地図「Postes de France」を完成させ、1632年に版画出版者のメルヒオール・タヴェルニエによって刊行されました。その後、自ら地図帳を複数出版し、後には著名な版画出版者ピエール・マリエットと協力関係を結びました。

晩年にはいくつかの出来事がありました。1647年には、イエズス会のフィリップ・ラベから自身の著作「Pharus Galliae Antiquae」の盗用であると非難される論争に巻き込まれました。翌1648年には、フロンドの乱の混乱の中で長男のニコラを失うという悲劇に見舞われています。晩年の友人としては、偉大な軍人として知られるコンデ公ルイ2世がいました。サンソンは1667年 7月7日にパリでその生涯を終えました。彼の死後、地理学者としての職務は、息子たちのアドリアンとギヨームに引き継がれ、彼らもまた国王に仕えました。

サンソンが製作した地図は、その後の地理学研究や地図製作に大きな影響を与えました。1692年には、アレクシス＝ユベール・ジャイロがサンソンの地図を集大成した「Atlas nouveau」（新地図帳）を作成しています。

なお、地理学で用いられる「サンソン図法」は、彼の製作した地図帳で広く用いられたことからその名が付けられていますが、この図法自体はサンソン以前から存在しており、正確な考案者は明らかになっていません。

主な著作物

サンソンは多岐にわたる地理学的な著作や地図を出版しました。その一部を以下に挙げます。

『ガリアの歴史と地理』 (Galilee antiquae descriptio geographica, 1627年)
『古代ギリシャについて』 (Graeciae antiquae descriptio, 1636年)
『ローマ帝国』 (L'Empire romain, 1637年)
『ブリタニア、またはアブヴィルの古代性の研究』 (Britannia, ou recherches de l'antiquité d'Abbeville, 1638年) - ストラボンによるブリタニアをアブヴィルと同一視する試みを含む。
『フランス』 (La France, 1644年)
『ガリアの分割のための方法論的な表』 (Tables méthodiques pour les divisions des Gaules, 1644年)
『イギリス、スペイン、イタリア、ドイツ』 (L'Angleterre, l'Espagne, l'Italie et l'Allemagne, 1644年)
『ライン川沿岸』 (Le Cours du Rhin, 1646年)
『フィリップ・ラベによる古代ガリアの灯台に関する考察』 (In Pharum Galliae antiquae Philippi L'Abbe disquisitiones, 1647–1648年)
『カエサルによる古代ガリアの地図に関する注記』 (Remarques sur la carte de l'ancienne Gaule de César, 1651年)
『アジア』 (L'Asie, 1652年)
『地理索引』 (Index geographicus, 1653年)
『スペインのアラゴン王家の領地』 (Les Estats de la Couronne d'Arragon en Espagne, 1653年)
『聖なる地理』 (Geographia sacra, 1653年)
『アフリカ』 (L'Afrique, 1656年)
『カナダやヌーベルフランスなど』 (Le Canada ou Nouvelle France, &c., 1656年)
『世界各地の総合地図』 (Cartes générales de toutes les parties du monde, 1658年)
『世界の区分の地理的な表』 (Tables geographiques des divisions du globe terrestre, 1677年) - 没後出版。

ニコラ・サンソンは、その精密な地図製作技術と地理学の深い知識をもって、17世紀のヨーロッパにおける地理情報の普及と近代地図学の確立に、計り知れない貢献を果たしました。彼の築いた基盤は、フランスにおける地図製作の伝統として、息子たちへと受け継がれていったのです。

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