ニコラ・ポルポラ

ニコラ・アントニオ・ポルポラ

ニコラ・アントニオ・ポルポラ（Nicola Antonio Porpora、1686年8月17日 - 1768年3月3日）は、18世紀イタリア後期バロック期に活躍した作曲家、特にオペラ分野で重要な足跡を残しました。また、比類なき声楽指導者としても知られ、後の音楽史に名を残す偉大な歌手や作曲家を数多く育て上げました。

生涯と業績

ナポリで音楽を学んだポルポラは、当時オペラ界を牽引していたアレッサンドロ・スカルラッティの影響を受けつつ、作曲家としてのキャリアをスタートさせました。彼の最初のオペラ作品《アグリッピーナ》は1708年にナポリの宮廷で成功を収め、続く《ベレニーチェ》もローマで上演されるなど、若くしてその才能を示しました。その後も多くのオペラを生み出しましたが、作曲収入だけでは生計を維持するのが困難だったため、ナポリ軍指揮官やヘッセン＝ダルムシュタット公、ローマ駐在ポルトガル大使といった貴族の庇護を受け、「楽長」として活動を続けました。

しかし、ポルポラが歴史にその名を刻む最大の理由は、声楽教育者としての卓越した手腕にあります。1715年から1721年にかけて、ナポリのサントノフリオ・ア・ポルタ・カプアーナ音楽院やポーヴェリ・ディ・ジェス・クリスト音楽院で教鞭を執り、かの有名なカストラート、ファリネッリ（カルロ・ブロスキ）をはじめ、カッファレッリ、フェリーチェ・サリンベーニといった時代の名歌手たちを育て上げました。彼の指導は非常に厳格でありながら効果的で、弟子たちはその訓練によって驚異的な技巧と表現力を身につけました。1720年と1721年には、若き才能溢れる詩人ピエトロ・メタスタジオと共同で2曲のセレナーデを作曲し、以後、中断を挟みつつも長期にわたる協力関係を築きました。1722年のオペラ成功を機に、音楽学校での職務を離れ、作曲活動に専念する期間に入ります。

1725年に神聖ローマ皇帝カール6世のウィーン宮廷との関係が途絶えると、ポルポラは主にヴェネツィアに拠点を移し、作曲活動に加え、ピエタ養育院などでの教育活動を定期的に行いました。1729年には、ロンドンでゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルに対抗する勢力である「反ヘンデル派」の招きを受け、オペラ興行に乗り出しましたが、商業的な成功は得られませんでした。1733年から1734年にかけては、自身の愛弟子であるファリネッリを出演させて巻き返しを図りますが、「貴族オペラ」と呼ばれるこの興行一座を破産の危機から救うことはできませんでした。

1748年からはドレスデンに移り、ザクセン選帝侯の宮廷楽長として活動しましたが、ヴェネツィアやローマ時代からのライバルであったヨハン・アドルフ・ハッセとその妻で有名なプリマドンナ、ファウスティーナ・ボルドーニとの緊張関係が原因となり、1752年にドレスデン宮廷を去ることになります。その後ウィーンに移り、そこで青年時代のヨーゼフ・ハイドンを指導しました。ハイドンはポルポラの近習のような立場で身を寄せていましたが、後にポルポラから「作曲の真の原理」を教わったと深く感謝の念を述べています。

1759年、故郷ナポリに戻ったポルポラですが、その晩年は数々の不運に見舞われました。彼の華やかで技巧的な作曲様式は、当時主流となりつつあった新しい音楽の潮流からは時代遅れと見なされるようになり、1760年に上演された最後のオペラ《カミッラの勝利》は失敗に終わりました。ドレスデン宮廷からの年金も打ち切られ、経済的に困窮した彼は、自身の葬儀費用すら予約演奏会の収入で賄わなければならないほど落ちぶれてしまいました。しかし、ポルポラがこの世を去る頃、彼の薫陶を受けたファリネッリやカッファレッリといった弟子たちは、師の卓越した指導によって巨額の富を築き、快適な隠居生活を送っていたという、なんとも皮肉な対比が見られました。

評価

ポルポラの功績は、声楽教育における革新と、数多くの名歌手の育成にあります。その教育者としての影響力は絶大で、オペラ史上におけるイタリア声楽の発展に大きく貢献しました。作曲家としては、同時代の偉大な作曲家たち（特にヘンデルやハッセ）との競争の中で必ずしも常に成功したわけではありませんが、彼の作品は後期バロック様式の技巧と美しさを今に伝えています。晩年の不遇は、音楽様式の過渡期における作曲家の厳しい現実を物語っていますが、その教育者としての功績は、時代を超えて高く評価されています。

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