ニコル・パシニャン

ニコル・ヴォヴァイ・パシニャン

ニコル・パシニャンは、1975年6月1日にアルメニア北部の都市イジェヴァンで生まれました。ジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、1998年に日刊紙「オラギル」を創刊し編集長に就任しますが、翌年には政府批判により投獄され、新聞も閉鎖に追い込まれます。その後、新聞「ハイカカン・ジャマナク」の編集者として活動を再開しました。

政界への進出と反政府運動

2007年、パシニャンは当時の大統領ロベルト・コチャリャンの弾劾を掲げる政党を設立し選挙に挑みますが、議席を獲得できませんでした。2008年の大統領選挙では、レヴォン・テル＝ペトロシャン陣営に参加し、不正選挙を主張する大規模な反政府運動を展開。しかし、この運動は警察との衝突で多くの犠牲者を出し、パシニャン自身も起訴され、2010年には実刑判決を受けます。2011年に恩赦で釈放された後も、彼は民主化運動を続け、政治犯制度の撲滅を訴えました。

2012年の総選挙では、野党アルメニア国民会議から出馬し当選。しかし、2013年の大統領選ではテル＝ペトロシャンと決別し、別の候補を支持しますが、ここでも敗北を喫します。2014年には自身が党首を務める「市民契約」を設立し、サルキシャン大統領の追放を目指し活動を開始します。

首相就任とその後

2018年、サルキシャン大統領が首相に転身したことを受け、パシニャンは大規模な反政府運動を組織します。この運動は成功し、サルキシャンは首相を辞任に追い込まれ、パシニャンは同年5月8日に首相に選出されました。首相就任後、報道の自由度向上や経済成長など、国内の状況は改善しました。また、2018年の総選挙では、パシニャン率いる与党連合が圧勝しています。

しかし、ナゴルノ・カラバフ問題を巡っては、アゼルバイジャンとの関係は悪化の一途を辿ります。2020年9月には、第二次ナゴルノ・カラバフ戦争が勃発し、アルメニアは劣勢のまま停戦協定を締結。この協定により、ナゴルノ・カラバフ周辺地域がアゼルバイジャンに返還されることになり、国内では大規模な抗議デモが発生しました。

2021年には、軍高官がパシニャンの辞任を要求しましたが、彼はこれをクーデターの試みだとみなし、解任を表明。その後、大統領も解任に反対しましたが、最終的に解任は実行されました。度重なる辞任要求の中、2021年4月には総選挙の前倒しのため一時的に首相を辞任し、暫定首相を務めました。同年6月の総選挙では、自身の政党が勝利し、8月に再び首相に任命されました。

ナゴルノ・カラバフ問題の転換と現在

2023年5月、パシニャンはナゴルノ・カラバフの主権をアゼルバイジャンに認める用意があることを示唆し、大きな波紋を呼びました。その後、アルメニアは欧米に接近する動きを強めたものの、同年9月にはアゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフへの軍事行動を開始。これにより、アルメニア軍は撤退を余儀なくされ、ナゴルノ・カラバフは武装解除され、事実上アゼルバイジャンの支配下に置かれることになりました。この事態に対し、エレバンでは大規模な抗議デモが起こり、パシニャンへの批判が強まっています。

人物像

パシニャンのパートナーは、同じくジャーナリストのアンナ・ハコビャンであり、二人の間には1男3女がいます。ハコビャンは、2012年から「ハイカカン・ジャマナク」の編集長を務めています。息子は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で前線にボランティアとして参加しました。また、パシニャン自身と家族は2020年に新型コロナウイルスに感染したことを公表しています。

パシニャンは、ジャーナリストから政治家に転身し、困難な状況を乗り越えながらアルメニアの民主化を進めてきました。しかし、ナゴルノ・カラバフ問題を巡る対応は国内で大きな批判を招き、彼の今後の政治手腕が問われています。

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