ニジニ・タギル

ニジニ・タギル：ロシアの鉱工業都市

ニジニ・タギル（ロシア語: Ни́жний Таги́л；Nizhny Tagil）は、ロシア連邦のスヴェルドロフスク州に位置する重要な鉱工業都市です。人口は約33万人（2021年）を擁し、鉄鉱山、製鉄、そして戦車製造でその名を知られています。

地理

ニジニ・タギルはウラル山脈の東斜面に位置し、標高は約200mです。ヨーロッパとアジアを分ける分水界から東へ約25kmに位置し、地理的にはアジア側に属します。市の面積は4,106平方キロメートルに及びます。合併前の旧市域は298平方キロメートルで、南北22km、東西21kmに広がっていました。

気候は大陸性気候で、冬は厳しく、夏は短いのが特徴です。年平均気温はマイナス0.3度で、過去には夏の最高気温が37度、冬の最低気温がマイナス49度を記録しています。旧市域の標高は170mから380mと比較的低く、ウラル山脈の分水界も平均標高400mから500mです。

市内にはタギル川が流れ、多くの支流を集めて北東へ進み、トゥラ川を経て最終的にはオビ川へと注ぎます。市街地はかつての火山であるリシャー山の周辺に広がり、この山は街のシンボルとなっています。

歴史

ニジニ・タギルの歴史は、1696年のヴィソコゴルスキー鉄鉱山の開山に始まります。この鉱山は純度の高い磁鉄鉱の鉱脈に恵まれ、周辺には鉄の採掘と精錬に適した環境が広がっていました。1722年10月8日にはヴィースキー精錬所が操業を開始し、これが街の成立日とされています。トゥーラの鍛冶屋ニキータ・デミードフは、ピョートル大帝の支援を受け、この地に工場を建設しました。

18世紀には、ニジニ・タギルはロシア帝国の主要な鉄鋼生産地として発展し、デミードフ家はロシア有数の産業家となりました。ニジニ・タギルの鉄や銅はヨーロッパ各地にも輸出され、ニューヨークの自由の女神像の鋳造にも使用されました。1833年にはロシア初の蒸気機関車が製造され、その功績を称え、市内には製造者のチェレパノフ親子の銅像が建てられています。

1919年8月20日、ニジニ・タギルは市に昇格し、同時にニジネタギリンスキー・ザヴォートから現在の名称に改称されました。第二次五カ年計画が始まると、ニジニ・タギルへの投資が活発化し、1932年にはウラル貨車工場（ウラルヴァゴンザヴォート）の建設が始まりました。大祖国戦争（独ソ戦）中には、ウラル貨車工場はT-34戦車の主要工場となり、戦時中に3万台ものT-34戦車が生産されました。

産業

ニジニ・タギルは、エカテリンブルクとペルミを結ぶウラル中部の工業中心地であり、製鋼、機械、化学、金属精錬などの大規模工場が集積しています。現在、ロシアの銑鉄の7%、ロール鋼板の6%をニジニ・タギルで生産しています。ニジニ・タギル製鉄所（NTMK）は、ロシア有数の製鉄企業であり、エブラズ・グループの中核を担っています。

また、兵器の見本市も開催され、隔年で「ロシア兵器展示会」（Russian Expo Arms）と「国際防衛展示会」（Russian Defense Expo）が交互に開催されます。ウラルヴァゴンザヴォートでは、現在も貨車、電車、トラクター、そして戦車を製造し、ロシアおよび旧ソ連地域における戦車の主要生産企業としての地位を確立しています。

文化

18世紀から20世紀にかけてニジニ・タギルの産業を支配したデミードフ家は、文化や地域社会にも貢献しました。19世紀には図書館や博物館が開設され、ニジニ・タギルはウラル地区の文化中心地となりました。現在も多くの図書館、地方史博物館、美術館が存在し、文化的な活動が盛んです。

市内にはドミトリー・マーミン＝シビリャーク劇場、人形劇場、地域劇場という3つの劇場があり、ニジニ・タギル芸術大学では演劇や音楽分野の人材育成が行われています。

出身者

ニジニ・タギルは、多くの著名な人物を輩出しています。詩人・作曲家のヴァレリー・ブライニン、野球選手のヴィクトル・スタルヒン、陸上競技選手のオレシャ・クラスノモベツ、物理学者のコンスタンチン・ノボセロフ、政治家のユーリ・ペトロフなどがいます。

ニジニ・タギルは、その豊かな歴史、重要な産業、そして活発な文化により、ロシアにおいて重要な役割を果たし続けています。

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