銑鉄

銑鉄：製鋼と鋳物の基盤となる鉄

銑鉄は、鉄鉱石から炭素を分離する還元プロセスを経て生産される鉄の一種です。その製造工程は製銑と呼ばれ、古くは「銑」と呼ばれていました。高炉や電気炉を用いて鉄鉱石を精錬することで得られますが、純鉄に比べて融点が低く、炭素含有量が高いことが特徴です。この炭素含有量は通常4%前後と高く、そのため硬い性質を持ちます。しかし、一方で衝撃に対して弱く、構造材として使用することはありません。

銑鉄の製造方法は大きく分けて、高炉を用いた製法と電気炉を用いた製法の2種類があります。現代日本では、高炉を用いた製法が主流となっています。高炉から取り出された状態の銑鉄は溶解した状態であり「溶銑」と呼ばれ、冷えて固まったものは「冷銑」と呼ばれます。冷銑はさらに、鋳型を用いて成型された「型銑」と、粒状の「粒銑」に分類されます。溶銑を急冷すると、主成分がセメンタイト（炭化鉄）となる「白銑鉄」が生成されます。

銑鉄の主要な用途は、製鋼と鋳物の2つです。製鋼においては、銑鉄に含まれる炭素量を転炉や平炉を用いて4%前後から2%以下にまで低減させることで鋼が生産されます。この炭素量の調整工程が製鋼です。また、電気炉を用いたスクラップの溶解製鋼においても、成分調整のために銑鉄が添加されることがあります。一方、鋳物用途では、銑鉄の成分を調整した上で鋳型に流し込み、鋳鉄を製造します。鋳物用途の銑鉄は「鋳物銑」とも呼ばれています。

歴史的には、大日本帝国陸軍が野砲や山砲の榴弾の代替として銑鉄製の榴弾を使用していました。これは、銑鉄の硬くもろい性質から破裂時に発生する破片が鋼鉄製榴弾よりも小さくなり、殺傷能力が低くなるという欠点を補うため、鋼鉄製榴弾よりも肉厚にすることで威力を確保する設計がされていました。この様な銑鉄製榴弾は、他の国々でも使用例があります。

銑鉄の生産量は国によって大きく異なります。特に中国は、世界最大の銑鉄生産国として圧倒的な生産量を誇ります。1993年には約9000万トンであった生産量は、中国の経済成長に伴い急増し、2005年には約3億3000万トンに達しました。これは、同時期の日本や旧ソ連諸国の生産量の約4倍に相当します。2005年時点では、日本が約8200万トン、旧ソ連諸国が約8000万トンの生産量でした。

日本では、2006年度時点で8社の企業が銑鉄を製造していました。これらの企業の多くは、銑鉄の製造から鋼材の製造までを一貫して行う高炉メーカーですが、製銑工程を専門とするメーカーも存在します。歴史的には、製鋼用銑鉄を専門とするメーカーや、鋳物用銑鉄を専門とするメーカーも存在していました。代表的な銑鉄メーカーとしては、日本製[[鉄]]、JFEスチール、神戸製[[鋼所]]などが挙げられます。

このように、銑鉄は現代社会の産業において、鋼や鋳鉄の生産に不可欠な原材料として重要な役割を担っていると言えるでしょう。その生産量や製造技術は、各国の経済発展と密接に関連しており、今後もその動向に注目が集まります。

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