ニハト・エリム

ニハト・エリムの生涯と業績

ニハト・エリム（İsmail Nihat Erim、1912年 - 1980年7月19日）は、トルコ共和国の政治家であり、1971年3月26日から1972年5月22日まで首相を務めました。彼は、トルコの外交や内政において重要な役割を担い、特に外交顧問や超党派内閣の創設で知られています。

生い立ちと学問的背景

エリムはトルコのコジャエリ県、カンドゥラに生まれました。ガラタサライ・リセとイスタンブール大学法学部を卒業後、パリに留学して法学の博士号を取得しました。1939年にはアンカラ大学法学部で准教授として教鞭を執り、1941年には教授に昇進しました。また、1943年からは外務省の法律顧問を務め、サンフランシスコ講和会議に参加するなど、国際的な舞台でも活躍しました。

政治家としてのキャリア

1945年には、無所属としてコジャエリ県から総選挙に当選し、その後共和人民党に所属することになります。彼は第2次サカ内閣で公共事業相、ギュナルタイ内閣で副首相を歴任しました。しかし1950年の総選挙では、民主党の台頭により落選し、その後はメディア界に転身。共和人民党の機関紙『ウルスUlus』の主筆を務める一方、発禁処分を受けると『新ウルス－人民主義者Yeni Ulus–Halkçı』を創刊しました。

1956年、エリムは英領キプロスにおけるギリシア系住民とトルコ系住民の対立を受け、トルコ政府代表団の一員としてイギリスとの協議に参加しました。彼はチューリヒ協定やロンドン協定の策定に関与し、キプロスの独立に向けた憲法の起草にも関わりました。

超党派内閣の形成

1960年の軍事クーデタ後、民主党政権が崩壊し、エリムは1961年の総選挙で共和人民党から議会に入ります。1971年3月12日、軍部による「書簡クーデタ」が発生し、公正党のデミレル政権が崩壊します。エリムは共和人民党を離党し、軍部の意向を受けて超党派内閣を組織しました。

彼の内閣は、改革派の経済閣僚アティラ・カラオスマノールが作成した社会経済改革プランを基に進められました。さらに、文化省の創設や、アメリカからの批判があったケシ栽培の禁止措置なども取り入れました。

直面した危機と辞任

しかし、エリム政権はすぐに危機に直面します。左右の政治対立が収束することはなく、テロ事件が多発。1971年に戒厳令が施行され、国家安全保障会議の権限が強化されました。その中で、左翼過激派による駐トルコ・イスラエル総領事暗殺事件が発生し、治安状況は深刻化しました。

エリム政権は、1971年12月に内閣不一致から総辞職に追い込まれますが、彼は再び首相に任命されます。しかし、健康上の理由により1972年5月22日に辞任しました。後任には国防相のフェリト・メレンが指名されました。

晩年と暗殺

エリムは1977年に上院議員に任命されましたが、1980年7月19日、イスタンブールで左翼過激派によって暗殺されてしまいます。彼の死は、その後のトルコ政治における混乱の象徴ともなりました。

ニハト・エリムの生涯は、トルコの政治史における重要な一幕を彩り、彼の政治的業績や影響は今なお語り継がれています。

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