ニホンイタチ

ニホンイタチ（日本鼬）

ニホンイタチ（学名：Mustela itatsi）は、日本固有のイタチで、イタチ科イタチ属に分類されます。かつてはシベリアイタチの亜種とされていましたが、近年のDNA分析により、別種であることが確認されました。本種は、日本の生態系において重要な役割を担っています。

分布

ニホンイタチは、本州、四国、九州に自然分布しています。また、ネズミ駆除を目的として伊豆諸島などの島嶼部にも人為的に移入されました。佐渡島では一度絶滅しましたが、後に他地域から移入された個体群が確認されています。北海道本島では、偶然の移入によって生息しており、周辺の島嶼部では人為的な移入によるものです。沖縄県では、生態系への悪影響が懸念され、重点対策外来種に指定されています。

形態

ニホンイタチは、オスとメスで大きさが異なります。オスはメスよりも大きく、体長はオスが27～40cm、メスが16～25cmです。尾長はオスが12～16cm、メスが7～9cm。体重はオスが290～650g、メスが115～175gです。体毛の色は個体差がありますが、基本的には茶褐色から黄褐色で、鼻筋周辺は暗褐色です。尾の色は体とほぼ同じです。歯は、切[[歯]]が上6本下6本、犬歯が上2本下2本、前臼歯が上6本下6本、後臼歯が上2本下4本の合計34本です。乳頭は、胸部にはなく、腹部に2対、鼠径部に2対の合計8個あります。指趾数は、前肢と後肢ともに5本で、合計20本です。新生児の体重は約8～12gです。

生態

ニホンイタチは冬眠せず、一年中活動します。活動時間帯は特に決まっておらず、昼夜ともに活動します。繁殖期以外は基本的に単独で行動します。手足の指の間には水かきがあり、泳ぎが得意です。厳冬期でも水に入り、潜ることもあります。主な生息地は、川、湖沼、湿地、沢などの水辺ですが、森林地帯にも生息しており、樹木に登ることもあります。警戒心が強く、後肢で立ち上がり周囲を観察する行動（目蔭）をすることがあります。

巣は、既存の穴や隙間を利用します。メスの活動範囲はオスよりも狭く、オスの活動範囲は複数のメスの活動範囲にまたがります。食性は主に動物食で、ネズミ、鳥、両生類、魚、カニ、ザリガニ、昆虫類、ミミズ、トカゲなどの爬虫類、動物の死骸などを食べます。また、ヤマグワ、サクラ、ヤマブドウ、マタタビ、コクワ（サルナシ）の実などの植物も食べます。

繁殖と子イタチの独立

ニホンイタチの繁殖期は、九州では年に2回ありますが、北海道では年に1回です。1回の出産で1～8匹の子を産み、平均は3～5匹です。北海道での発情期は4月中旬から6月上旬です。妊娠期間は、飼育個体で37日という記録があります。子育てはメスのみが行います。新生児は体毛が薄く、視力もありません。生後約5週目で視力を得て、生後8～10週目で離乳し、10週目頃から自分で餌を捕獲するようになり、秋には親離れします。多くは翌年には繁殖が可能になります。

北海道への移入

北海道には、明治初期に本州以南から出港した船舶に侵入し、函館港から上陸した個体が野生化したとされています。昭和初期までの北海道の文献に「エゾイタチ」と書かれているのは、ほとんどの場合エゾオコジョのことです。

ニホンイタチの北海道本島での拡散状況は以下の通りです。

明治初期：函館に上陸
1914年：花畔（現石狩市）で確認
1934年：根室地方を除く北海道に拡散
その後：根室地方でも確認され、北海道全域で野生化

北海道本島への移入は偶然でしたが、周辺の島嶼部ではネズミ駆除を目的として人為的に移入されました。

1933年：利尻島
1940年：礼文島
1948年：奥尻島
1952年：焼尻島

チョウセンイタチの侵入

チョウセンイタチは、日本では対馬のみが自然分布域でしたが、現在は西日本の九州、四国、中国地方、近畿地方、そして東海地方にも生息しており、ニホンイタチの生息域を侵食しています。これらの地域に生息するチョウセンイタチは、1949年頃に九州に侵入した個体が拡散したものと考えられています。太平洋戦争前に飼育されていたという情報もあります。戦前の毛皮生産奨励政策により、チョウセンイタチも毛皮目的で養殖されていた可能性があります。

チョウセンイタチの生息域拡大は、ニホンイタチとの生存競争にニホンイタチが敗れた結果と考えられています。チョウセンイタチは平野部など人の生活地域での生息が多く、山岳地帯の急斜面がその侵入を抑制しています。したがって、山岳地帯の開発が進み、人の生活に適した緩やかな地形になると、チョウセンイタチの侵入も拡大すると推測されます。チョウセンイタチは、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の特定外来生物には指定されていません。

種の保全状況評価

ニホンイタチは、国際[[自然保護連合]]（IUCN）によって2016年からレッドリストの準絶滅危惧（NT）に指定されています。日本では、以下の都道府県でレッドリストに指定されています。また、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律により、狩猟鳥獣に指定されています。

絶滅危惧II類：佐賀県、大阪府
準絶滅危惧：東京都（区部と北多摩地区）、神奈川県、鳥取県（平野部の生息域がチョウセンイタチに脅かされている）、島根県、広島県、山口県、香川県、福岡県（平野部で減少し、チョウセンイタチが分布）、熊本県、大分県
情報不足：群馬県、岡山県、長崎県、宮崎県
地帯別危惧：埼玉県、宮崎県
* 分布特性上重要：鹿児島県

ニホンイタチは、生息地の減少や外来種との競争などにより、その個体数が減少しています。今後の保全策が重要となっています。

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