ニホンツキノワグマ

ニホンツキノワグマ（Ursus thibetanus japonicus）

ニホンツキノワグマは、ツキノワグマの日本固有亜種であり、本州と四国に生息しています。かつては九州にも生息していましたが、現在は絶滅したと考えられています。

形態

ニホンツキノワグマは、ユーラシア大陸に生息するツキノワグマに比べて小型で、クマ類の中でも比較的小柄です。

体長：100-150cm
尾長：6-11cm
体重：オス60-120kg、メス40-80kg

体毛は全身が黒色ですが、まれに赤褐色や濃褐色の個体も存在します。胸には三日月形またはV字状の白い模様があり、これが和名や旧属名の由来となっています。ただし、模様がない個体もいます。

生態

森林地帯に生息し、夜行性です。昼間は樹洞や岩の割れ目などで休みますが、果実が豊富な時期には昼間も活動することがあります。夏は標高の高い場所で過ごし、冬は低い場所へ移動して冬眠します。

食性は雑食で、植物を中心に昆虫、魚、動物の死骸なども食べます。近年では、ニホンカモシカやニホンジカなどの大型動物を捕食する様子も確認されており、環境によっては肉食傾向が強まることもあります。

繁殖は胎生で、通常2頭の幼獣を産みます。授乳期間は約3ヶ月半で、幼獣は2-3年ほど母親と生活し、3-4年で性成熟を迎えます。寿命は約24年、飼育下では約33年です。

個体数と人間との関係

ニホンツキノワグマは、農林業に被害をもたらす害獣としての側面と、生態系を構成する野生動物としての側面を持ち合わせています。そのため、生息域や熊害防止に関心が寄せられています。

個体数は正確には把握されていませんが、過去には10,000頭前後と推定されていました。しかし、近年はドングリの不作やナラ枯れなどの影響で、人里への出没が増加し、捕獲数も増加傾向にあります。

クマの出没原因としては、

堅果類の不作
ナラ枯れ
生息数の増加
奥山林の変化
里山地域の放棄
誘引要因の増加（放置された果樹や残飯など）
ハンターの減少

などが考えられています。

人身被害も発生しており、2004年、2006年、2010年には死亡者を含む多数の被害が報告されています。クマに出会った場合は、背を向けずにゆっくり後退することが重要です。

農作物や養蜂場、養魚場も被害を受けており、特にカラマツ、スギ、ヒノキなどの樹皮を剥ぐ「クマハギ」は林業に深刻な被害をもたらしています。クマハギの原因は完全には解明されていませんが、食糧不足や繁殖行動との関連が指摘されています。

日本では、クマ科の動物は特定動物に指定されており、愛玩目的での飼育は禁止されています。

地域個体群

ニホンツキノワグマは、地域ごとにいくつかの個体群に分かれており、それぞれが異なる状況に置かれています。

下北半島個体群：森林率の減少と人工林率の増加が課題
紀伊半島個体群：人工林率が高く、絶滅の危機に瀕している
中国地方東部個体群：人工林の増加や道路建設、罠による混獲が懸念
中国地方西部個体群：自然林の減少や開発、罠による混獲が懸念
四国個体群：分布域が限定的で、罠による混獲や道路建設が懸念
九州個体群：絶滅したと考えられているが、人為的な移入の可能性も指摘

これらの地域個体群の保護のため、狩猟の禁止や有害駆除、生息環境の保全などの対策が行われています。

対策

日本政府や各自治体は、クマとの遭遇を避けるための注意喚起や、人里への誘引防止対策を呼びかけています。具体的には、

柿などの放置された果樹や食品ごみの撤去

追い払い体制の整備（煙火弾や轟音弾の活用）
警戒と捕獲体制の整備（罠や駆除隊の設置）
ハザードマップの作成と警戒地区の指定
ベアドッグの訓練と解禁
里山の整備
進入防止用の電気柵の設置
樹皮剥ぎ防止用資材の設置

などの対策が進められています。また、捕獲したクマに人の怖さを学習させてから放獣する「学習放獣」の試みも行われています。

ニホンツキノワグマと人間が共存するためには、生態や行動を理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。

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