ニュージーランド航空901便エレバス山墜落事故

1979年 11月28日、ニュージーランド航空901便は、南極観光飛行中にエレバス山に墜落し、乗員乗客257名全員が死亡するという痛ましい事故が発生しました。この事故は、南極で発生した初の民間航空機事故であり、ニュージーランド航空にとって設立以来最悪の事故となりました。

事故の概要

ニュージーランド航空901便（以下、TE901便）は、マクドネル・ダグラスDC-10-30型機で運航される南極観光飛行便でした。オークランドを出発し、マクマード基地を経由してクライストチャーチに戻る計画でした。

事故当日、TE901便は順調に飛行を続け、マクマード基地周辺に到達しました。しかし、機長は雲の切れ間を見つけて降下を開始し、その後、許可された経路を逸脱してエレバス山に向かって飛行しました。当時、現場周辺はホワイトアウトが発生しやすい気象条件であり、機長の判断ミスと重なり、機体は山腹に激突しました。

事故調査

事故後、ニュージーランド運輸省による事故調査委員会と、王立調査委員会の二つの委員会が設置され、事故原因の徹底的な調査が行われました。

運輸省事故調査委員会の報告

当初の調査では、パイロットの判断ミスが主な原因とされました。具体的には、

最低安全高度を無視した低空飛行
許可された飛行経路からの逸脱
ホワイトアウトの危険性に対する認識不足

などが指摘されました。

王立調査委員会の報告

しかし、その後の王立調査委員会による調査で、事故の背景にはより複雑な要因が絡み合っていたことが明らかになりました。

飛行経路の誤り: ニュージーランド航空は、パイロットに知らせないまま飛行経路のデータを修正していました。当初、エレバス山を避ける経路が計画されていましたが、直前で山の真上を通る経路に変更されていました。この変更は、パイロットに十分な説明がなされないまま、航法装置に反映されていました。
安全管理体制の不備: 航空会社は、乗員の訓練内容を簡素化し、南極飛行の経験を持つ乗員の搭乗を必須としなくなっていました。
ホワイトアウトの危険性への認識不足: パイロットは、ホワイトアウトという特殊な気象現象の危険性を十分に認識していませんでした。訓練資料にも十分な情報が含まれていませんでした。
マクマード基地の管制能力に対する誤解: パイロットは、マクマード基地の管制能力を過信していました。

王立調査委員会は、これらの要因が複合的に重なった結果、事故が発生したと結論づけました。特に、航空会社が乗員に知らせないまま飛行計画を修正したことが主要な原因であると指摘しました。

その後の訴訟と論争

王立調査委員会の報告後、委員長のピーター・マホンはニュージーランド航空に対し、証拠隠滅や秘匿工作を図ったとして告発しましたが、最終的に訴えは退けられました。

しかし、事故の責任はどこにあるのか、という議論はその後も続いています。遺族の中には、ニュージーランド航空の謝罪をいまだ受け入れられない人もいます。

事故がもたらした影響

この事故は、ニュージーランド航空に大きな衝撃を与えました。同社は、南極観光飛行を中止し、安全対策の見直しを余儀なくされました。また、事故を教訓に、航空業界全体で安全運航に対する意識が高まりました。

追悼施設

事故現場の近くには、犠牲者を追悼するための十字架が建てられています。また、オークランドには犠牲者を追悼する公園や慰霊碑が設置されています。

事故の教訓

TE901便の事故は、

航空会社の安全管理体制の重要性
パイロットの訓練の徹底
特殊な気象条件への理解
* 情報伝達の重要性

を私たちに教えてくれました。二度とこのような悲劇を繰り返さないためにも、この事故の教訓を忘れずに、安全な空の旅を追求していく必要があります。

この事故は、多くの命が失われた悲劇であると同時に、航空安全を向上させるための重要な教訓となりました。

もう一度検索