ニュー・イングリッシュ・アート・クラブ

ニュー・イングリッシュ・アート・クラブ（New English Art Club、略称: NEAC）は、イギリスの職業画家たちによって構成される歴史ある団体です。この協会は、イギリス芸術家連盟（Federation of British Artists、略称: FBA）に所属しており、ロンドン市内、モール・ギャラリーズの一角に他のFBA加盟団体と共に活動拠点を置いています。毎年定期的に大規模な展覧会を開催しており、イギリス絵画界において重要な役割を果たしてきました。

設立と初期の活動

NEACは1885年に創設されました。その背景には、当時のイギリス美術界を牽引していたロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ（王立美術院、RA）の、アカデミックかつ保守的な運営方針に対する若い画家たちの強い不満がありました。特に、海外、とりわけフランスのパリで新しい美術動向を学んだ彼らは、RAの閉鎖的な姿勢や作品選考に疑問を抱いていたのです。

創立メンバーの中には、後に著名となるジョン・シンガー・サージェントや、スタンホープ・フォーブス、トーマス・クーパー・ゴッチといった画家たちが名を連ねていました。彼らは、フレデリック・レイトン男爵らが運営するRAに対抗するため、独自の発表の場を設けることを決意します。

そして、設立翌年の1886年4月、NEACはロンドンのEgyptian Hallで最初の展覧会を開催しました。この展覧会には約50名の画家が参加し、当時の美術界に新たな風を吹き込む試みとして注目されました。

展覧会を巡る議論と進化

最初の展覧会で特に物議を醸し、大きな話題となったのは、ヘンリー・ハーバート・ラ・タング（H.H. La Thangue）が出品した農民夫妻を描いた作品「In The Dauphiné」でした。この作品は、そのリアリティと新しい表現手法で賛否両論を巻き起こしました。

また、組織の運営方針を巡っても初期には議論がありました。特にH.H.ラ・タングは、会をより多くの会員を抱える大規模な組織へと発展させたいという意欲を持っていましたが、指導的立場にあったウィリアム・ジェームズ・レイドリーは、少数の精鋭会員による運営を理想としていました。この対立は論争に発展しましたが、ラ・タングの構想は最終的に資金難から実現には至りませんでした。

設立初期のNEACの展覧会には、印象派やそれに近いスタイルを持つ画家が多く参加する傾向がありました。これに対し、RAは引き続きアカデミックなスタイルの絵画が中心でした。このため、画家によっては両者の間で所属や発表の場を巡る選択が見られました。例えば、スタンホープ・フォーブスはRAの会員に選ばれましたが、トーマス・クーパー・ゴッチはRAの会員となることができなかった時期があったと言われています。しかし、時代と共に両団体の展覧会に出品される作品の傾向も変化し、やがてNEACとRAの両方の展覧会に作品を出展することが一般的な流れとなっていきました。

後の発展と現在

19世紀末から20世紀初頭にかけて、NEACにはさらに多くの著名な画家たちが参加しました。ウォルター・シッカート、オーガスタス・ジョン、ヘンリー・トンクスといったイギリス美術史に名を残す画家たちが会員となり、会の権威と影響力を高めました。1920年代には、スタンレー・スペンサーや、ポスト印象派の影響を受けたウィリアム・ローゼンステインらが会員に加わるなど、常に時代の先端を行く画家たちを受け入れてきました。

現在も、ニュー・イングリッシュ・アート・クラブは、伝統を重んじつつも現代的な表現を追求する職業画家たちの協会として活動を続けています。ロンドンのモール・ギャラリーズを拠点とし、毎年恒例の展覧会を開催することで、画家たちの作品発表の機会を提供し、一般の人々が多様なイギリス絵画に触れる場を提供しています。

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