ニルギリラングール

ニルギリラングール

ニルギリラングール（Semnopithecus johnii）は、南インドの美しい山岳地帯、特に西ガーツ山脈の一部を構成するニルギリ丘陵を中心に分布するオナガザル科コロブス亜科に属するサルの一種です。彼らの生息域は、カルナータカ州のコダグ地方やタミル・ナードゥ州のコダヤル丘陵、さらにはケーララ州やタミル・ナードゥ州の他の多くの丘陵地帯にも及んでいます。

分類学上の位置づけ

本種の分類に関しては、長年にわたり議論が続いています。かつては、頭蓋骨の形状や生まれたばかりの子どもの毛皮の色といった形態的な特徴に基づいて、「ラングール属（Trachypithecus）」に分類されるのが一般的でした。しかし、近年のDNA分析などの分子生物学的な研究が進んだ結果、ニルギリラングールやその近縁種であるカオムラサキラングール（Semnopithecus vetulus）は、よりハヌマンラングール（Semnopithecus entellus）に近い関係にあることが示唆されています。このため、現在は「ハヌマンラングール属（Semnopithecus）」に含めるべきだという説が有力視されており、分類学的な再検討が進められています。

身体的な特徴

ニルギリラングールは、その独特な外見で知られています。全身を覆う毛皮は、光沢を帯びた深い黒色をしており、遠目にも目立ちます。これに対し、手や足の先端部分は金茶色や赤褐色に見え、黒い体色との美しいコントラストをなしています。身体のサイズや長い尾の長さは、前述のハヌマンラングールによく似ています。

具体的なサイズとしては、頭部を含めた体長は、成熟したオスで約78〜80センチメートル、メスで約58〜60センチメートル程度です。尾の長さは体長よりも長く、68.5〜96.5センチメートルにも達します。体重はオスの方が大きく、9.1〜14.8キログラムほどですが、メスはやや軽い10.9〜12キログラム程度です。メスには、太腿の内側に白い斑点が見られるという特徴があります。

生態と行動

ニルギリラングールは、主に樹上性で、森林の中で生活しています。通常は、9頭から10頭程度の比較的規模の小さい群れを形成して行動します。彼らの主要な食料は、植物の葉、若い芽、そして果実などです。植物質の食物を消化するために適応した消化器官を持っています。

繁殖に関しては、妊娠期間について詳しい情報が得られていません。しかし、近縁種であるハヌマンラングールの妊娠期間が約200日であることから、ニルギリラングールもおおよそ同じくらいの期間であると推測されています。

保全状況と脅威

残念ながら、ニルギリラングールは現在、国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストにおいて、絶滅の危険性が高いとされる「危急種（Endangered）」に指定されています。この厳しい現状の主な原因は、彼らの生息環境の悪化です。森林伐採や農地への転換などにより、彼らが依存する森林が減少・分断されています。

さらに深刻な脅威となっているのが密猟です。ニルギリラングールは、その美しい毛皮を目的に狩猟されることがあります。また、彼らの肉に薬効がある、特に媚薬としての効果を持つと信じられている地域もあり、こうした迷信に基づく狩猟も絶滅の危機を加速させています。生息地の保全と密猟の防止は、ニルギリラングールを将来にわたって守っていくための喫緊の課題となっています。

参考

IUCN Red List of Threatened Species
ARKive - images and movies of the Nilgiri langur (Semnopithecus johnii)

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