ハヌマンラングール

ハヌマンラングール：インド神話の象徴とユニークな生態

ハヌマンラングール( Semnopithecus entellus)は、インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュ、中国南部、ネパールといった南アジア地域に広く分布するオナガザル科の霊長類です。その名前は、インド神話『ラーマーヤナ』に登場する猿神ハヌマーンに由来しており、その体毛の色や体型がハヌマーンを連想させることから、現地では神聖な動物として崇められています。

大きさと外見

オスは体長51～78cm、体重8～20kg、メスは体長41～68cm、体重5～17kgと、オスの方が大型です。特徴的なのは、69～108cmにも及ぶ長い尾で、樹上での生活に役立っていますが、地上では邪魔なため、尾を上げて移動します。体毛は灰褐色で、顔や手足は黒い皮膚が露出しています。ラングールとはサンスクリット語で「痩せたサル」、ヒンディー語で「長い尻尾」を意味する言葉です。

多様な亜種

ハヌマンラングールは、地域によって様々な亜種に分類されています。 S. e. entellus（北方平原の灰ラングール）をはじめ、S. e. achates（平原ラングール）、S. e. ajax（カシミール灰ラングール）など、それぞれの地域に適応した形態や生態を示しています。分類については、英語版文献やワシントン条約などでも、基亜種以外の亜種の一部を別種として扱う場合があり、その分類は未だに議論の余地があります。

生態と行動

低地から標高3500mの高地まで、様々な森林に生息しています。樹上生活も行いますが、主に地上で生活し、1頭のオスと数十頭のメス、幼獣からなる中規模の群れを形成します。若いオスだけで群れを作ることもあります。興味深いことに、若いオスが既存のオスを追い出した際に、新しいオスが前代のオスとの間に生まれた幼獣を殺す「子殺し」という行動が確認されており、この現象は地域変異があることが示唆されています。複数のオスが群れに共存する地域では、子殺しは起こらないようです。

食性は植物食で、木の葉、樹皮、果実、種子などを食べます。繁殖は胎生で、一度に一頭の幼獣を産みます。

人間との関係

インドでは、ハヌマーンの使いとして崇拝されており、都市部や寺院周辺にも生息しています。人々から食物を奪うこともありますが、神聖視されているため、積極的に駆除されることはありません。一方、人間に被害を与えるアカゲザルとは競合関係にあり、猿回し芸人などがハヌマンラングールを調教してアカゲザル対策に利用することもあります。

まとめ

ハヌマンラングールは、そのユニークな生態と、インド文化における神聖な存在としての地位から、生物学的研究のみならず、文化人類学的な観点からも非常に興味深い霊長類です。その生態の多様性や、人間社会との複雑な関係性については、更なる研究が求められています。

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