ネイピア セイバー

セイバーエンジンの概要

セイバー（Sabre）は、イギリスのネイピア・アンド・サン社（以下ネイピア）が第二次世界大戦直前に開発し、戦争中に生産された航空機用の液冷式H型24気筒レシプロエンジンです。フランク・ハルフォードによって設計されたこのエンジンは、180度V型エンジンを上下に配置する形で連結したH型の構造を採用しており、スリーブバルブ機構も特徴です。このエンジンは、同時代の同クラスのエンジンの中で際立った高回転・高出力を実現し、最終的には3500馬力以上を達成しました。

開発の背景

セイバーが開発される前、ネイピアは戦間期にスーパーマリン製のスピードレーサーに搭載されたライオンエンジンなど、高出力エンジンの開発で実績を積んでいました。しかし1920年代後半になると、旧式化したライオンエンジンに代わって、高出力の新しいエンジンが求められるようになり、これがセイバーの開発の契機となりました。

複数の先行機種を経て、ネイピアは16気筒のレイピアや24気筒のダガーといったH型エンジンの開発に着手しました。このH型エンジンは、クランクピンが180度V型に配置され、上下に重ねることで前面投影面積を縮小し、高速化を図ることができました。同時に低振動の特性を持ち、高速回転による高出力化が期待されました。

しかし、空冷方式を採用したことからオーバーヒートの問題が発生しました。同時に、リカルドが提唱した新型スリーブバルブの存在は、ハルフォードにとって大きな転機となりました。1938年に初めての試作機が点火され、発展の過程で出力は次第に向上し、最終的には世界的に評価されるエンジンとなりました。

生産と運用の課題

セイバーの高出力は多くの期待を集めましたが、量産開始後には信頼性に問題が生じました。例えば、ヘストン タイプ5の試作機が初飛行でオーバーヒートにより墜落したことは、当初の計画に深刻な影響を及ぼしました。このような問題は、製造工程や工作精度、さらには工員の技術不足に起因するものでした。

特にスリーブバルブ周りではオイル漏れやエンジン故障が多発し、航空省からの圧力によりブリストルが技術供与を行う事態にまで至りました。悪評の定着は避けられず、信頼性の向上が急務とされていました。その後、イングリッシュ・エレクトリックの買収を経て、改善プランが実施されることになりました。

性能の進化

改良後のセイバー Mk.Vは、出力を安定化させることに成功し、戦闘機や対地攻撃機として活躍しました。例えば、タイフーンやテンペストなどの機体がドイツのFw190に対抗するために用いられ、その能力を証明しました。しかし、時代は急速に変化し、ターボジェット機が登場することで、セイバーの活躍時代は過ぎ去りました。

結論

セイバーエンジンは、高出力と独自の設計哲学により、航空エンジンの歴史において重要な役割を果たしました。その性能は高く評価されましたが、生産時の課題も多く残しました。最終的にはその特異な設計が影響し、後の航空エンジン技術にも大きな示唆を与えることとなりました。

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