H型エンジン

H型エンジンについて

H型エンジン（H engine）は、レシプロエンジンの一種で、左右に配置されたシリンダーが組み合わさった特徴的な形状を持っています。正面から見ると、シリンダーと接合部が「H」あるいは「エ」の字の形を形作るため、その名前が付けられました。このエンジンは、水平対向エンジンや180°V型エンジンを二段に重ねた設計で構成されています。

構造と特徴

H型エンジンの最大の特徴は、二つの別々のエンジンが連携して動作することです。それぞれのエンジンは独立したクランクシャフトを持ち、動力がギアトレーンを通じて統合され、外部に出力されます。このため、一般的なエンジンと比較すると、出力自重比に劣ります。これが、H型エンジンが一般的に広まらなかった要因の一つです。しかし、エンジン全長を短く保ちながらシリンダー数を増やすことができるため、航空機用エンジンやフォーミュラ1エンジンにおいて利用される事例があります。

H型エンジンと同様の設計概念に基づくエンジンにU型エンジンがあります。これは、直列エンジンを二つ束ねた構造です。また、V型エンジンを二つ結合したX型エンジンも存在しますが、こちらは単一のクランクシャフトを持つ点でH型エンジンとは異なります。

実例

自動車用

F1では1966年にレギュレーションが変更され、最大排気量が3リッターに拡大されました。この変化に合わせて、イギリスのBRMはH型16気筒エンジン「P75」を開発しました。このエンジンは、180°V型8気筒エンジンを二段に重ねた設計で、BRMのチームやロータスへ供給されましたが、軽量なV8エンジンに敗れてしまいました。

当時のBRMのドライバー、ジャッキー・スチュワートは、H型エンジンの重量と信頼性の無さを批判し、「こんなエンジンは船の錨にでもした方がいい」と述べました。ただし、1966年アメリカGPではロータスのジム・クラークがこのエンジンで優勝し、F1史上最も気筒数が多いエンジンによる勝利として記録されました。さらに、1939年に少量生産されたブラフ・シューペリアのオートバイ「ゴールデンドリーム」は、排気量1000ccのH型4気筒エンジンを搭載していました。

航空機用

航空機用レシプロエンジンの主流はV型や倒立V型エンジンでしたが、気筒数を増やす際に全長が伸びすぎ、航空機の設計に課題が生じることがありました。そこで、H型エンジンの形態が注目され、特に16気筒や24気筒といった超多気筒エンジンで採用されることがありました。

H型エンジンはX型エンジンと比較して出力特性では劣るものの、信頼性や頑丈さにおいて優れており、軍用機などで広く使用されました。特にイギリス空軍の航空機に多く用いられ、バトル・オブ・ブリテンにおいて重要な役割を果たしました。

主なH型エンジンの例

• - ライカミング H-2470: H型24気筒、排気量40.4L、出力2300馬力（試作のみ）
• - プラット・アンド・ホイットニー X-1800: H型24気筒、排気量42.6L、出力2000馬力（試作のみ）
• - ネイピア レイピア: H型16気筒、排気量8.83L、出力340馬力
• - ロールス・ロイス イーグル: H型24気筒、排気量46.2L、出力3200馬力

このように、H型エンジンは特異な設計と構造を持ちながら、多様な用途に応じたエンジンとしての役割を果たしてきたことがわかります。

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