ネクタネボ1世

ネクタネボ1世（あるいはナクトネブエフの名でも知られる）は、古代エジプト史における重要な転換期に登場したファラオであり、紀元前4世紀に興隆した第30王朝の創始者として歴史に名を刻んでいます。

彼の治世は紀元前380年頃に始まりました。これは、先代の第29王朝のファラオ、アコリスが死去した後のことでした。アコリスの後を継いだのはその子ネフェリテス2世でしたが、ネクタネボ1世は彼を退位させて新たな王朝を開き、王位を獲得しました。この権力移行により、エジプトは新たな時代へと突入することになります。

ネクタネボ1世の治世の最も重要な課題の一つは、エジプトの独立を脅かすペルシア帝国からの再征服の危機に対処することでした。かつてエジプトを支配したペルシアは、再びこの豊かな地を自国の版図に加えようと虎視眈々と機会を窺っていました。ネクタネボ1世は、この強大な敵からの侵攻に備え、アテナイやスパルタといったギリシアの都市国家から軍事的な支援を受け入れるなど、外交的な努力も惜しみませんでした。

実際に、ペルシアはギリシアの同盟軍と共に、ナイル川の西側からエジプトへの大規模な侵攻を開始しました。この戦いにおいて、ネクタネボ1世率いるエジプト軍は一時は苦戦を強いられ、敗北を喫する局面もありました。しかし、ペルシア・ギリシア連合軍がエジプトの首都メンフィスに迫る前に、彼らの内部で対立が生じ、連合軍は自ら撤退するという予期せぬ展開となりました。この結果、エジプトは独立を守り抜くことができたのです。この勝利には、エジプト軍がナイル川の定期的な氾濫という自然現象や地形に関する深い知識を戦略的に活用したことも大きく寄与したとされています。

ネクタネボ1世はまた、軍事的な指導者としてだけでなく、偉大な建築者としてもその名を馳せました。約18年間にわたる比較的安定した治世を通じて、彼は全国各地で膨大な数の記念碑や神殿の建設および修復を命じました。長年の混乱や戦乱によって荒廃していた多くの神殿は、彼の治世下で再建され、かつての輝きを取り戻しました。特に、聖地として知られるフィラエ島には簡素ながらも最初のキオスク（あずまや）を建造しました。

フィラエ島の他にも、彼はエルキャブ、メンフィス、サフト・エル・ヘンネフ、タニスといった重要な都市に新たな聖所を設けました。これらの建築活動は、後に古代エジプトにおける宗教的な中心地の発展に大きな影響を与えました。特にフィラエ島は、彼の建築活動が契機となり、後のプトレマイオス朝時代にかけてイシス信仰の最も重要な拠点の一つとして隆盛を極めることになります。ヘルモポリスにおいては、かつて偉大なファラオ、ラムセス2世が建てた巨大な塔門（ピュロン）の前に、見事な石柱を建立しました。また、古代エジプト最大の複合神殿であるカルナック神殿にも、最初のピュロンとなる建造物を設けるなど、その建築事業は多岐にわたりました。

治世の後半にあたる紀元前365年頃からは、息子のテオスとエジプトを共同で統治し、円滑な権力移行を図りました。これは、王位の安定した継承を確実にするための措置と考えられています。紀元前362年にネクタネボ1世が死去すると、息子のテオスが父の事業を受け継ぎ、新たなファラオとして玉座に就きました。

ネクタネボ1世の治世は、第30王朝の基盤を築き、ペルシアからの独立を守り、そして全国規模での建築活動を通じてエジプトの宗教的・文化的景観を豊かにした時代として記憶されています。彼の功績は、続く王朝や時代にも影響を与え続けました。

もう一度検索