タニス

タニス

タニス（古代ギリシャ語: Τάνις）は、古代エジプトにおいてナイル川デルタ地帯の北東部に栄えた都市です。かつては主要なナイルの支流に面していましたが、その流れは長い年月を経て泥の堆積により途絶えています。古代エジプト語ではジャネット（Djanet）、現代アラビア語ではサーン・アル＝ハガル（Ṣān al-Ḥaǧar）として知られています。

歴史

タニスの都市としての歴史は、エジプト新王国末期にあたる紀元前11世紀頃、エジプト第20王朝の終わりに始まります。続く第21王朝時代には、北方の首都として政治の中心地となりました。第21王朝の創始者であるスメンデス1世は、このタニスで生まれたと伝えられています。政治的な求心力を維持し、タニスは次の第22王朝時代にもエジプトの政治を動かす重要な都市であり続けました。ただし、この時代には南部のテーベを中心とする上エジプトにも並立する権力構造が存在していました。

タニスは、紀元後6世紀頃まで商業都市および戦略的要衝としての機能を果たし続けましたが、マンザラ湖の大規模な氾濫による水害の脅威に直面し、最終的に放棄されました。タニスから避難した人々の一部は、その近くに新たな都市テニス（Tennis）を建設したとされています。

遺跡と考古学的発見

タニスの遺跡からは、アメン神に捧げられた大神殿をはじめとする複数の神殿跡や、エジプト第3中間期（第21王朝から第25王朝頃）の王家の墓地であるネクロポリスが見つかっています。これらの神殿建設に用いられた石材の多くは、ラムセス朝時代（第19・20王朝）の首都であったペル・ラムセスから運ばれたものが再利用されています。そのため、初期のエジプト学者の中には、タニスこそが伝説のペル・ラムセスではないかと考える者もいました。

しかし、タニスの真のアイデンティティは、王家のネクロポリスで得られた驚異的な発見によって明らかになります。ここで、第21王朝と第22王朝のファラオたちの墓が、奇跡的に盗掘を免れた状態で発見されたのです。特に、プスセンネス1世、アメンエムオペト、シェションク2世といった王たちの墓からは、埋葬当時のままの貴重な副葬品が出土しました。フランスの考古学者ピエール・モンテによって1939年から1940年にかけて行われた発掘調査では、これらの王墓から黄金のマスクをはじめ、大量の金製品、宝飾品、ラピスラズリなどが発見されました。これらの発見は、当時の王権の強大さとタニスの富を如実に示しており、この地がペル・ラムセスではなく、第21王朝・第22王朝の真の首都タニスであったことを決定づけました。

宗教的側面

タニスで崇拝された主要な神々は、国家神アメンとその妻ムト、そしてその子コンスでした。これら三柱の神々は「タニス三柱神」を形成していましたが、その構成はテーベで崇拝された三柱神（アメン、ムト、コンス）と全く同じです。このことから、タニスは「北のテーベ」と呼ばれることもあります。これは、第21王朝時代に首都がテーベからタニスへ移った後も、新しい都において旧来の宗教的権威を引き継ごうとした意図があったことを示唆しています。

近年の発見

現代においてもタニスの考古学的な調査は続けられています。2009年には、エジプト文化省がタニスのムト神殿の領域内で、保存状態の良い聖なる池が発見されたと発表しました。この池は石灰岩のブロックで構築されており、長さ約15メートル、幅約12メートルの規模を持ち、地表から約12メートルの深さで見つかりました。タニスでは、これ以前にも1928年に別の聖なる池が発見されています。

ポップカルチャーにおけるタニス

映画『レイダース/失われたアーク《聖櫃》|レイダース_失われたアーク《聖櫃》』（1981年公開）では、旧約聖書の「契約の箱」がタニスの秘密の地下室に隠されているという設定が物語の重要な要素として使われています。また、作中ではドイツの遠征隊によって1936年にタニスが発見されたと描写されていますが、これはフィクションであり、史実とは異なります。実際には、タニスの考古学的な発掘は19世紀から本格的に開始されており、フリンダーズ・ピートリーやオギュスト・マリエットといった著名な考古学者たちが調査に携わっています。

タニスは、古代エジプト史における第3中間期の政治、宗教、芸術を知る上で極めて重要な遺跡であり、特にその豊かな王墓の発見は、この時代の解明に多大な貢献をもたらしました。

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