ネグレリア

ネグレリア (Naegleria)

ネグレリアは、生物分類学上、エクスカバータ門ヘテロロボサ綱ファールカンピア科に属する単細胞性の原生生物の一属です。その名の由来は、この生物の発見や研究に貢献したフランスの生物学者マチュー・ネグレ氏に敬意を表して名付けられたとされています。この属に属する生物は、多くがアメーバ状の形態をとることから、「アメーバ」の仲間として広く認識されています。

特徴

ネグレリア属の最も重要な特徴の一つは、特定の種がヒトに対して病原性を示すことです。中でも、フォーラーネグレリア（Naegleria fowleri）は、公衆衛生上特に注意が必要な種として知られています。この微生物は、人間に感染した場合に、原発性アメーバ性髄膜脳炎（Primary Amoebic Meningoencephalitis、略称：PAM）と呼ばれる、極めて進行が速く致死率の高い重篤な神経系感染症を引き起こします。

Naegleria fowleri は、他のネグレリア属の種と比較して、高温環境への適応能力に優れているという独特の性質を持っています。具体的には、病原性のない近縁種である Naegleria lovaniensis と同様に、45℃という比較的高温の温水環境下でも活発に生育し、増殖することが可能です。これは、温泉や温水プール、工業排水など、特定の人工的または自然な高温環境に生息する Naegleria fowleri の生態と深く関連しています。ネグレリア属の他の多くの種は、このような高温では生存できません。

ネグレリア属には、Naegleria fowleri 以外にも、いくつかの種が存在し、それぞれ異なる特性を持っています。これらの種の中には、実験動物を用いた研究において病原性が確認されているものもあります。例えば、Naegleria australiensis や Naegleria italica といった種で、実験条件下で病原性が示されています。しかし、これらの種がヒトに対して実際に病気を引き起こしたという報告は、現在のところ確認されていません。

ネグレリアの多くの種は、環境条件の変化に応じてその形態を変える能力を持っています。通常はアメーバ状で、仮足（偽足）を伸ばして移動しますが、特に水中環境では、2本の鞭毛を持つ遊泳性の鞭毛虫の形態へと変態することがあります。この鞭毛虫期は、水中を素早く移動し、より広い範囲に分散するのに適した形態と考えられています。ただし、ネグレリア属の全ての種がこの鞭毛虫に変態できるわけではなく、一部にはアメーバ状の形態のみをとる種も存在します。

分類

ネグレリア属の分類は、主にリボソームRNA（rDNA）の遺伝子配列を解析する分子遺伝学的な手法に基づいて進められています。この分子系統解析の結果、現在までに合計47種類もの種がネグレリア属として公式に認識されています。これらの多様なネグレリア種は、遺伝的な類似性に従って、主に1から8までの異なる遺伝的クラスタに大別されており、それぞれのクラスタが属内の進化的な関係性を示唆しています。このような詳細な分類は、各ネグレリア種の生態や病原性、環境への適応能力などを理解する上で重要な基盤となっています。

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