ネダプラチン

ネダプラチン

ネダプラチンは、がんに効果を示す白金を含む化合物で、抗がん剤として使用されます。化学的には白金錯体の一種であり、商品名は「アクプラ」です。この薬剤は塩野義製薬によって開発され、日本では1995年6月に製造販売が承認されました。その後、2016年に販売元が日医工株式会社に移管されています。

効能・効果

本剤の適用対象となるがんは多岐にわたり、具体的には以下の疾患に使用されます。

頭頸部がん
肺小細胞がん
肺非小細胞がん
食道がん
膀胱がん
精巣がん（睾丸腫瘍）
卵巣がん
子宮頸がん

作用機序

ネダプラチンが体内に投与され、がん細胞内に入ると、その分子構造に変化が起こります。まず、分子の一部であるグリコレート配位子と中心の白金原子との結合が外れ、代わりに水分子が結合した「活性種」と呼ばれる状態（アコ錯体）に変化します。続いて、グリコレート配位子のもう一方が不安定になって脱離し、様々な構造を持つイオン種が生成されます。これらのイオン種が、がん細胞の増殖に不可欠なDNAの二重らせん構造と強く結合します。ネダプラチンは、同効薬であるシスプラチンと類似した経路でDNAに結合すると考えられており、DNAの複製や転写といった機能を阻害することで、がん細胞の分裂・増殖を抑え、最終的に細胞死（アポトーシス）を誘導することで抗腫瘍効果を発揮します。

副作用

ネダプラチンは、その薬効に伴い様々な副作用が現れる可能性があります。特に注意が必要な「重大な副作用」としては、以下のようなものが報告されています。

ショック、アナフィラキシー様症状: 重篤なアレルギー反応で、血圧低下や呼吸困難などを引き起こすことがあります。
骨髄抑制: 血液を作る骨髄の機能が低下し、白血球、血小板、赤血球といった血球成分が減少します。これにより感染症にかかりやすくなったり、出血しやすくなったり、貧血になったりします。
アダムス・ストークス発作: 重度の不整脈による意識消失発作です。
聴覚障害: 難聴や聴力低下、耳鳴りなどが生じることがあります。
間質性肺炎: 肺の組織に炎症が起こり、咳や息切れなどの呼吸器症状が現れます。
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群（SIADH）： 体内の水分バランスを調整するホルモンの異常により、低ナトリウム血症などを引き起こします。
* 腎機能障害: 腎臓の働きが低下し、腎不全に至ることもあります。

この他にも、悪心、嘔吐、食欲不振、倦怠感、脱毛など、様々な副作用が報告されています。

シスプラチンとの比較における副作用プロファイル

ネダプラチンは、同じ白金系の抗がん剤であるシスプラチンと比較して、副作用の現れ方に特徴的な違いが見られます。

消化器系の副作用、特に悪心や嘔吐、食欲不振については、ネダプラチンの方が比較的頻度が低い傾向があります。例えば、臨床試験での悪心・嘔吐の発現率はシスプラチンで85.3%であったのに対し、ネダプラチンでは悪心7.25%、嘔吐4.46%と報告されています。食欲不振も、シスプラチンの74.6%に対しネダプラチンは3.40%と低い値が示されています。

一方で、骨髄抑制に関しては、ネダプラチンの方がシスプラチンよりも強く現れる傾向があります。白血球減少はシスプラチンで36.5%だったのに対しネダプラチンでは52.8%、血小板減少はシスプラチンの17.0%に対しネダプラチンでは44.8%と、ネダプラチンで発生率が高いことが示されています。貧血についても、ヘモグロビン減少や赤血球障害として同程度かやや高い頻度で認められます。

このように、ネダプラチンはシスプラチンと比較して消化器症状が軽減される利点がある反面、骨髄抑制のリスクが増加するという特性を理解し、患者さんの状態や併用する薬剤に応じて適切に選択・管理が行われます。

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