ネットワークコンピュータ

ネットワークコンピュータ（NC）とは

ネットワークコンピュータ（Network Computer, NC）は、1996年から2000年頃にかけてオラクルが提唱した、ディスクレスのデスクトップコンピュータの規格です。サン・マイクロシステムズやエイコーン・コンピュータといった企業と共同で開発が進められました。NCは、ビジネス用途や一般消費者向けに、低コストで利用できる端末として売り出されましたが、その概念自体は当時目新しいものではありませんでした。

NCの概要

NCはシンクライアントの一種と位置づけられますが、その宣伝効果から、シンクライアントやディスクレスデスクトップコンピュータと同義語として扱われることもありました。NCの大きな特徴は、インテルのCPUとマイクロソフトのソフトウェアを使用していない点です。このため、マイクロソフトとインテルは、NCに対抗する標準としてNetPCを開発しました。

NCブランドは、主にデスクトップPCの代替として、ディスクレス設計と安価な部品を採用することで、従来のPCよりも低価格かつ操作が容易な製品を提供することを目指していました。しかし、PC自体の価格が下落し、ディスクレス運用やシンクライアントとしての利用が可能なPCの選択肢が増えたため、NCはオラクルのCEOラリー・エリソンが期待したほど普及することなく、市場から姿を消しました。

NCの失敗要因

NCが市場に受け入れられなかった主な要因は以下の通りです。

PCの価格低下: PCの価格が急速に下落し、1000ドル未満で購入できるようになったため、NCの価格優位性が失われました。
ソフトウェアの未成熟さ: NC向けのソフトウェアは成熟しておらず、オープンな環境でもありませんでした。
時代を先取りしすぎた: 1996年当時、一般的な家庭のインターネット接続はダイヤルアップ回線で、通信速度が遅く、実行ファイルの転送には不十分でした。また、World Wide Webが主流になるのは1998年以降であり、インターネットが一般に普及する前でした。

これらの要因が重なり、NCはニッチなデバイスとして扱われ、多くの場合は安価なX端末として利用されるにとどまりました。

NCの規格

NCとして認められるためには、ハードウェアとソフトウェアの両面で、以下の基準を満たす必要がありました。

ハードウェア

VGA以上の画面解像度
ポインティングデバイス
文字入力機能
音声出力機能

ソフトウェア

TCP/IPなどの通信プロトコル
WWW標準サポート（HTTP、HTML、Java）
電子メールプロトコル
マルチメディアファイルフォーマット（JPEGなど）
セキュリティ標準

これらの基準は、1996年に策定されたNetwork Computer Reference Profile (NCRP) に基づいています。NCRPの策定には、オラクル、サン、IBM、Apple、ネットスケープが関与しました。その後、拡張標準として、Enterprise Network Computer Product Standard (1999年1月) やMobile Network Computing Reference Specification (1999年3月) などが策定されました。

NCの実装例

NCの規格に基づいた製品として、以下のものが挙げられます。

Acorn Network Computer: エイコーン・コンピュータがオラクルのリファレンス実装として開発しました。
NetProducts NetStation: イギリスの企業NChannelが設計・商標を持ち、エイコーンと共同で次世代製品を開発しようとしましたが、実現には至りませんでした。
Sun Microsystems JavaStation: サン・マイクロシステムズが開発した、JavaOSとSPARCを搭載したNCです。
IBM Network Station: IBMが開発したNCで、NetBSDベースのNCOSをLANで接続されたサーバからブートします。Xサーバとしても機能し、基本的なアプリケーションもローカルで実行できました。
* Apple Netboot: Appleは、Mac OS X Serverの機能として、bootpdを利用したNetBootを実装しました。当初はネットワークコンピュータとしてiMacが想定されていましたが、実際には全てのMacintoshでリッチクライアントとして利用可能になりました。

まとめ

ネットワークコンピュータ（NC）は、1990年代後半に登場した、ディスクレスで低コストなコンピュータの規格です。しかし、PCの低価格化やインターネット環境の未熟さなどにより、普及には至りませんでした。NCの登場は、その後のシンクライアントやネットワークコンピューティングの発展に影響を与えたと言えるでしょう。

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