ネパール・バサ語

ネパール・バサ語は、通称ネワール語としても広く知られている言語です。この言語は、主にネパールの中央部に位置するカトマンズ盆地とその周辺地域に居住するネワール族の人々によって話されています。その名称には、ネワール語、Newar、Nepala bhasa、Newaah Bhaaye、Newal Bhaye、Newari、Nēwāri、Pahriなど、いくつかの異称が存在します。

言語の分類と特徴

ネパール・バサ語は、言語学的にはシナ・チベット語族の下位区分であるチベット・ビルマ語派に属するとされています。しかし、長きにわたり、サンスクリット語やマイティリー語、さらには現代ネパール語といった、インド・ヨーロッパ語族のインド・イラン語派に属する言語と緊密な接触があったため、その影響を強く受けています。この影響は、豊富な語彙の借用だけでなく、文法構造においても類似点が見られるほどです。また、チベット・ビルマ語派の言語としては比較的珍しく、インド系の文字体系であるデーヴァナーガリー文字を用いて表記される点が、ネパール・バサ語の大きな特徴の一つと言えます。

歴史的背景

ネパール・バサ語の歴史は古く、カトマンズ盆地で栄えたリッチャヴィ朝時代に作成されたサンスクリット語の碑文の中には、既にネワール語に由来すると考えられる地名が登場しています。現存するネワール語で書かれた最も古い文書は、12世紀にまで遡るとされています。しかし、ネパールの歴史における大きな転換点となったのは、1768年から1769年にかけてゴルカ朝がカトマンズ盆地を征服した出来事です。これにより政治の中心が変わり、征服者側の言語であるネパール語（当時はパハール語とも呼ばれた）が優位になるにつれて、ネパール・バサ語からネパール語への言語交替が次第に進行していく状況が見られるようになりました。

文法概説

ネパール・バサ語の文法は、いくつかの興味深い特徴を持っています。例えば、特にカトマンズで使用される方言においては、能格（ergative）的な要素が見られる言語構造です。名詞には文法的な性による区別は存在しません。複数形は、人間や動物など生命を持つ対象を示す「有情名詞」にのみ見られるのが一般的です。動詞の活用においては、過去形において特徴的な区別があります。話し手自身や聞き手（疑問文の場合）に関わる状況を表す際に用いられる「順接形（conjunct form）」と、それ以外の状況で用いられる「離接形（disjunct form）」が対立して使用されます。このような現象は、中央チベット語など他のチベット・ビルマ語派の言語にも見られます。さらに、ネパール・バサ語には、名詞の種類や性質に応じて数詞などと共に用いられる類別詞が存在します。

語順

基本的な語順は、「主語-目的語-動詞」（SOV）の形を取ります。名詞を修飾する要素（形容詞や指示詞など）は、数詞の場合を除いて、原則として修飾される名詞の前に置かれます。また、動詞の行為を補足する副詞的な要素も、通常は対応する動詞の前に配置されます。

その他

ネパール・バサ語には地域によっていくつかの方言差が存在します。関連事項として、かつてチベットとカトマンズ盆地の間で商業活動を行っていたネワール族の商人集団であるLhasa Newarや、現代ネパール・バサ語の古い言語段階を示す古典ネパール・バサ語などが挙げられます。この言語に関する詳細な情報や記述は、石井溥氏による『言語学大辞典』や、Graham ThurgoodおよびRandy J. LaPolla編の"The Sino-Tibetan languages"に収録された論文などに求められます。オンラインで利用可能なネパール・バサ語の辞書や、言語データベースEthnologueなどのリソースも存在します。

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