ネパール王国の君主

ネパール王国の君主

ネパール王国の君主とは、18世紀後半から2008年の廃止まで存続したネパール王国において、近代ネパール国家の領域を統治した歴代の王を指します。この君主制の歴史は、シャハ朝の成立から始まり、様々な政治体制の変遷を経て終焉を迎えました。

称号の変遷

ネパール王国の君主は、その歴史の中で異なる称号を用いてきました。初代国王とされるプリトビ・ナラヤン・シャハから第7代プリトビ・ビール・ビクラム・シャハまでの歴代君主は、「マハーラージャーディラージャ」（Mahārājādhirāja）という称号を使用しました。これはサンスクリット語で「大王の中の王」という意味を持ち、南アジアの多くの王権で用いられた権威ある称号です。

しかし、第8代トリブバン王以降、最後の国王であるギャネンドラ王に至るまでの時代には、より簡潔に「国王」（King）という称号が主に用いられるようになりました。

また、歴史の一時期には、王権を実質的に掌握したラナ家宰相が、極めて異例な「首相・大王」という称号を名乗る状況も発生しました。

王国の成立と初期

ネパール王国の歴史は、18世紀半ばにゴルカ王国の指導者であったプリトビ・ナラヤン・シャハによって始まりました。彼は、カトマンズ盆地に存在したマッラ朝の諸王国を征服し、1769年までに盆地の統一を達成しました。この統一によって、シャハ朝を戴くネパール王国が誕生しました。ただし、建国初期、特に第3代ギルバン・ユッダ王の治世までは、現代のネパール全域を完全に支配していたわけではありませんでした。

ラナ家による専制時代

19世紀半ば、ネパール政治は大きな転換期を迎えます。1846年に発生した王宮大虐殺事件を契機に、ラナ家が宰相職を世襲する体制が確立されました。ラナ家出身の初代宰相ジャンガ・バハドゥル・ラナは、国王に対して「カスキとラムジュンの大王」という称号を与える勅令を出させました。これは、ラナ家の出身地であるカスキとラムジュンの地域を指すものでしたが、宗主国であったイギリスがこれを地方藩主の称号としか見なしていないことを知ると、ジャンガ・バハドゥルは新たな手を打ちます。

彼は、宰相である自身が王権に優越する存在であることを示すため、前例のない「首相・大王」という称号を創設し、これを名乗る勅令を国王に出させました。以後、ラナ家の歴代宰相はこの称号を世襲し、国王は名目的な元首となり、政治の実権はラナ家宰相が握るという、事実上の専制体制が構築されました。この体制下では、国王の権力は著しく制限されました。

王政復古と政治体制の変遷

ラナ家による専制は、20世紀半ばまで続きました。しかし、第二次世界大戦後の国際情勢の変化や国内の民主化運動の高まりを受け、1951年に「王政復古」が実現します。これによりラナ家の世襲宰相制は終焉を迎え、「首相・大王」の称号は廃止されました。代わって、国王を国家元首としつつ、選挙によって選ばれた内閣と議会が政治を運営する立憲君主制が導入されました。これはネパールにとって初めての本格的な民主主義体制への試みでした。

しかし、この立憲君主制も長くは続きませんでした。1960年、第9代マヘンドラ国王がクーデターを起こし、内閣と議会を解散させます。これにより立憲君主制は崩壊し、国王が直接政治を行う「国王親政」の時代が始まりました。この国王親政体制は、1990年にビレンドラ国王の治世下で民主化運動が高まるまで続きました。

地方の君主と王政の終焉

中央のシャハ朝国王の下には、地方を統治する下位の王や藩主も存在しました。ムスタン王国、サリャーン王国、ジャージャルコート王国、バジャーン王国などがこれにあたります。これらの地方君主は、中央のシャハ朝国王に従属する形で存在していましたが、中央の王政と同様に、2008年にネパールで王制が廃止されたことに伴い、彼らもまたその地位を失い退位しました。

ネパールの王政は、統一国家の形成、特異な権力構造、民主化と後退、そして最終的な廃止という、激動の歴史を経てその幕を閉じたのです。

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