ムスタン王国

ムスタン王国：ヒマラヤに眠る古の王国

ムスタン王国は、かつてネパールに存在した自治王国で、2008年までその歴史を刻みました。チベット語で「肥沃な平原」を意味するムスタンは、その名の通り、ヒマラヤ山脈の奥深くに位置し、独自の文化と歴史を育んできました。この記事では、ムスタン王国の地理、歴史、文化、そしてその終焉までを詳しく解説します。

地理と環境

ムスタン王国は、ネパールとチベットの国境に位置し、ガンダキ川の上流、ダウラギリ地方の北部に広がっていました。その面積は約3,640平方キロメートルで、南北約81キロメートル、東西約64キロメートルの範囲に及びます。この地域は、チベット高原とインド平原を結ぶ重要な回廊であり、古くから交通の要衝として機能していました。また、長らく外国人の立ち入りが制限されていたため、「禁断の王国」とも呼ばれていました。

住民と文化

ムスタン王国の住民は、主にロッパ族と呼ばれるチベット系の人々で構成されています。彼らはチベット仏教を信仰し、チベット文化の影響を強く受けています。そのため、ムスタンは「ロ王国」とも呼ばれ、チベット語が共通語として使われてきました。鎖国政策が長く続いた結果、ムスタンにはチベットの伝統文化が色濃く残っており、特に1951年にチベットが中国に併合された後は、「チベットの外のチベット」「古き良きチベット」として知られるようになりました。

歴史

ムスタン王国の歴史は、1350年にアメパルが王国を建設したことから始まります。1769年にネパールが統一され、シャハ王朝が成立した後も、ムスタン王国はアッパームスタンで独立を保ち続けました。2008年まで、ムスタン王国はネパール国内で唯一、高度な自治権を持つ地域として存続していました。最後の国王は、ジグメーパルバル・ビスタ（25代目）で、1964年に即位し、2008年の藩王制廃止までその地位にありました。普段、国王夫妻はカトマンズに住んでおり、祭典の際にローマンタンを訪れるという生活を送っていました。

王国の終焉

2008年10月7日、ネパール政府は藩王制廃止を決定し、これによりムスタン王国は終焉を迎えました。ジグメーパルバル・ビスタは国王を退位し、ムスタン王国はその歴史に幕を閉じました。

観光

ムスタン地域への欧米人の最初の訪問は1950年代に遡ります。ムスタンは標高2,700mのアンダームスタンと標高3,500m以上のアッパームスタンに分かれます。特に、首都ローマンタンのあるアッパームスタンは、チベット動乱以来、1991年10月に解禁されるまで外国人の立ち入りが長く禁止されていました。現在でも、ネパール政府公認の旅行会社を通して申し込み、2名以上で行動する必要があります。以前は政府連絡官の同行が義務付けられていましたが、現在は廃止されています。入域許可費用は10日まで1人500USドル、11日目から1日50USドルです。

ムスタン王国の歴代君主

以下は、ムスタン王国の主な歴代君主です。

アメ パル（1380-?）
サ ドバン（1656-1710）
ジ アン（1711-1723）
クラジス ナムギャル（1723-1728）
テンジン アンジア（1728-1750）
アンジア ドルジェ（1750-1797）
クラシ シンポ（1797-1815）
ジャムパル グラルス（1815-1837）
クンダ ノルブ（1837-1857）
ジャムヤン アングドゥ（1857-1863）
ジャムヤン バナス（1863-1893）
ジャムヤン パルバル（1893-1935）
アングン テンジン トランドゥル（1935-1955）
アング オンドゥ ニィンポ パルバル（1955-1958）
アングン テンジン トランドゥル（1958-1964）
ジグメードルジェ トランドゥル（1964）
ジグメーパルバル・ビスタ（1964-2008）

関連事項

シッキム王国
* 奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン - NHK総合テレビジョンのドキュメンタリー番組（NHKスペシャル）。

ムスタン王国は、その長い歴史の中で、チベット文化を色濃く残しながら、独自の進化を遂げてきました。その歴史と文化は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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