ネ0 (エンジン)

ネ0と川崎航空機のジェットエンジン

川崎航空機（以下、川崎）が開発したラムジェットエンジン「ネ0」は、第二次世界大戦中における日本の航空技術の一端を担っています。本記事では、このネ0をはじめ、同時期に開発されたネ1、ネ2、ネ3、ネ4の各エンジンについて詳しく解説します。

概要

1942年、昭和17年に設立された第二陸軍航空技術研究所（以下、二航研）は、複数のジェットエンジンの開発に着手しました。その中で川崎が提案した補助エンジン群、すなわちネ1からネ4が開発の対象となりました。ネ0は、これらのタービンジェットよりも先んじて基礎技術の研究を目的とし、製作されました。

開発の経緯

第二次世界大戦における戦闘の激化から、高性能な兵器が求められる中、特にプロペラ機に代わるジェットエンジンへの関心が高まりました。他方、海軍では「TR」と呼ばれるターボジェットエンジンの開発が進められ、陸軍や東京大学航空研究所（以下、東航研）でも専門の研究部門が設立されました。

1942年11月、陸軍二航研は林貞助技師を指名し、川崎が11名のチームを率いてジェットエンジンの開発に着手しました。このプロジェクトでは、東航研が提案したネ101モータージェットやネ201ターボプロップに加え、補助エンジンとしてさまざまな形式のモータージェットおよびターボジェットの開発が決定されました。

各エンジンの特性を理解するために、圧縮機は軸流式と遠心式の2種類が作成されることになり、最終的にネ1からネ4及びラムジェットのネ0の計5種類を並行して試作することとなります。開発は思ったよりも順調に進み、1943年11月にはネ0が完成しました。完成後、ネ0は九九式双発軽爆撃機に搭載され、空中運転のテストが実施されました。

試験と開発の中断

ネ0の実験試験は幾度か行われ、一定の成果を収めましたが、その後は放置され、1944年7月に機体ごと二航研に引き渡されました。この後、ネ1からネ4のうち、特にネ3とネ4に重点が置かれ、試作機による地上運転試験が実施されました。しかし、戦況の悪化とドイツからのエンジン資料の入手が影を落とし、1944年7月にはこれら川崎のジェットエンジンの開発が中断されることとなりました。

戦局の影響で、空中試験に至らず終戦を迎えましたが、林技師は後に「中断がなければ、昭和19年8月頃にはネ4による日本初のターボジェット推進テストを実施することが可能だった」と跡を惜しみました。

各エンジンの諸元

ネ0

• - 形式: ラムジェット
• - 全長: 2,100mm
• - 最大断面部内径: 600mm
• - 推力: 60kg（高度2,800m）
• - 空気流量: 8.1kg/s（高度2,800m）
• - 圧縮比: 1.12（高度5,800m、550km/h）

ネ1

• - 形式: モータージェット
• - 圧縮機: コントラ型2段軸流式
• - 推力: 185.5kg×2（高度2,800m）

ネ2

• - 形式: モータージェット
• - 圧縮機: 1段遠心式
• - 推力: 150kg（計画）

ネ3

• - 形式: ターボジェット
• - 全長: 2,321mm
• - 推力: 348kg（高度2,800m）

ネ4

• - 形式: ターボジェット
• - 全長: 1,700mm
• - 推力: 276kg（高度2,800m）

参考文献

• - 碇義郎著『幻の戦闘機 - 秋水、火龍、烈風、震電…開発の記録』、サンケイ出版、1980年。
• - 林貞助「旧陸軍試作の補助ジェットエンジンの全貌（その1）」日本ガスタービン学会誌、1977年。
• - 林貞助「旧陸軍試作の補助ジェットエンジンの全貌（その2）」日本ガスタービン学会誌、1977年。

関連項目

• - ネ20 (エンジン)

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