ノイバラ

ノイバラ

ノイバラ（野茨、学名：Rosa multiflora）は、バラ科に属する落葉性のつる性低木で、ノバラ（野薔薇）とも呼ばれます。日本の野バラの代表的な種として知られ、北海道から九州にかけての山野に広く自生しています。その名の通り、枝には鋭いトゲが密生しています。

名称の由来

和名「ノイバラ」は、とげが多い木を指す「茨（いばら）」に、野生であることから「野」が冠されて名付けられました。かつて「いばら」はトゲのある低木性のバラ類全般を指す言葉でしたが、次第に特定の植物名となりました。別名「ノバラ」としても親しまれています。古くは「ウバラ」や「ウマラ」と呼ばれていたものが転じたとされます。
学名の種小名「multiflora」は、ラテン語で「花が多い」を意味し、白い花を房状に多数咲かせる姿に由来しています。

分布と生育環境

日本の北海道から九州、および朝鮮半島に分布します。日当たりの良い山地の林の縁、原野、河川敷、道端など、比較的地盤が不安定であったり、定期的に攪乱されるような場所に多く見られます。生育力が非常に旺盛で、刈り込みにも強く、根元から再び芽を出すため、時には雑草のように扱われることもあります。

特徴

落葉性のつる性低木で、通常1〜3メートルほどの高さになります。茎は長く伸びて半つる状になり、他の植物に寄りかかるようにして成長します。若い枝には鋭いトゲが一対ずつ、葉の付け根の下についており、赤褐色で下向きに曲がっています。成木になると幹のトゲは薄れ、樹皮は縦に裂けます。若い枝の樹皮は緑色や紅紫色です。

葉は互い違いにつき、5〜9枚の小葉からなる奇数羽状複葉です。小葉は長さ2〜5センチメートルほどの楕円形や卵形で、縁には細かいギザギザがあります。葉の表面は無光沢で、裏面には軟毛が密生します。葉柄の基部には、櫛の歯状に切れ込んだ托葉がついています。

花期は初夏（4〜6月）。枝の先に円錐状に花序を作り、直径2.5〜3センチメートルほどの白色の五弁花を房のように多数咲かせます。花びらは先端が少しへこんだ丸みを帯びた形で、優しい香りがあります。中央には多数の黄色い雄しべが集まり、雌しべは一本にまとまって直立します。

果期は秋（9〜10月）。丸い偽果を結実させ、赤く熟してよく目立ちます。果実は直径6〜10ミリメートルほどの球形で、先端には萼片が残ります。果皮は薄くて硬く光沢があり、内部には数個の痩果が入っています。冬になっても枝に残りますが、やがて黒ずんでいきます。

冬芽は小さな円錐形やイボ状で、数枚の芽鱗に覆われています。落葉後の葉痕は細長い三日月形をしており、維管束痕は不明瞭です。

生育が旺盛でトゲが多いため、道端などでは雑草として嫌われることがあります。根絶は容易ではなく、除草剤や根ごと掘り起こすといった対策が取られます。

栽培と利用

春の発芽前に、前年に伸びた枝を挿し木して増やすことができます。枝が多く茂りやすいので、適宜剪定して形を整えます。

園芸用バラの品種改良に広く用いられ、房咲き性の特徴をもたらした重要な原種です。また、園芸用バラを接ぎ木する際の台木としても重用されます。実生苗の方が、挿し木苗よりも良い台木になると言われています。

花は芳香があり、香水の原料として蒸留されることもあります。花や赤い果実は花材として、またリース作りにも使われます。

薬用

赤く熟した果実（偽果）は、薬用植物としても利用されてきました。「営実（えいじつ）」と呼ばれ、日本薬局方にも収載されている生薬です。利尿や便秘に対する緩下作用があるとされ、漢方薬としても用いられます。果実には、マルチフロリンなどのフラボノイドやリコピンなどが含まれています。

営実は、落葉が始まる10月頃に、完全に熟す前の青みが残った状態で採取し、天日で乾燥させて調製されます。民間療法では、便秘には乾燥させた営実を煎じて服用する方法があります。ただし、量によっては腹痛や下痢を引き起こす可能性があるため、少量から試すなどの注意が必要です。腎臓や脚気によるむくみに対しても煎液が用いられることがあります。

また、営実のエキスは化粧品の成分としても利用されています。皮膚の保護や収れん、抗酸化、美白、保湿、皮膚細胞の活性化といった効果が期待されており、おできやにきび、腫れ物に対して、冷ました煎液で患部を洗ったり湿布したりする民間療法もあります。

文化

ノイバラの花言葉は「素朴なかわいらしさ」です。古くは「うまら」や「うばら」の名で、『風土記』や『万葉集』にも詠まれています。

謙遜して自分の妻を指す「荊妻（けいさい）」や「荊婦（けいふ）」という言葉は、後漢の隠者・梁鴻の妻である孟光が、イバラのかんざしを挿していたという故事に由来します。孟光は貧しいながらも道を好み、夫を敬い支えた賢妻として知られています。

近縁種

海岸などに生えるテリハノイバラ（Rosa luciae）は近縁種です。葉に光沢があり、地面を這う性質が強いですが、ノイバラと同様にトゲを持ち、果実も薬用として利用されます。花期はノイバラよりやや遅く、花は一回り大きいですが、数が少ない傾向があります。

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