ノカイドウ

ノカイドウ（野海棠）

ノカイドウ（学名：Malus spontanea）は、バラ科の植物で、世界で唯一、霧島山にのみ自生する固有種です。1910年（明治43年）に、中野与衛門と深沢武逸によって発見され、植物学者の牧野富太郎博士によって新種として発表、命名されました。

特徴

ノカイドウは、高さ3〜5メートルほどの小高木で、枝分かれがよく発達した樹形をしています。その姿から、鳥が止まりにくいとして、地元では「トリトマラズ」とも呼ばれています。葉は楕円形で、長さ3〜5センチメートル、幅1.5〜3センチメートルほど。縁には鋸歯があります。5月上旬には、赤い蕾から薄桃色の直径2〜2.5センチメートルの可愛らしい花を咲かせます。花後には、直径8ミリメートルほどの小さな実を結び、秋になると赤く色づきます。

近縁種としては、園芸品種のハナカイドウが知られています。

分布と生育環境

ノカイドウは、霧島山にのみ自生する固有種であり、そのほとんどが、えびの高原の長江川源流付近や日当たりの良い湿地に集中して生育しています。この地域は、1923年（大正12年）に「ノカイドウ自生地」として国の天然記念物に指定されました。1966年（昭和41年）の調査では、えびの高原で473株が確認されていましたが、1995年（平成7年）の調査では251株にまで減少しています。

ノカイドウは、洪水などで植生が失われた場所に定着したと考えられていますが、遷移によって周辺の植生が変化し、日当たりが悪くなると急速に衰退することがわかっています。現在では、シカによる食害も深刻化しており、幼木には六角形の半透明プラスチック製カバー（ヘキサチューブ）がかけられています。

保護上の課題

ノカイドウは、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類 (EN) に指定されています。1997年には、絶滅寸前のIA類 (CR) とされていましたが、2007年にIB類 (EN) に変更されました。これは、絶滅の危険性が依然として高いことを示しています。

ノカイドウの衰退を防ぐためには、周辺の植生に手を入れる必要がありますが、自生地は国立公園内に位置し、天然記念物でもあるため、大規模な植生の変更は容易ではありません。このため、自生地が消滅する可能性も指摘されており、保護に向けたより積極的な対策が求められています。

参考文献

荒木徳蔵ほか 「ノカイドウ」 『霧島山総合調査報告書』 霧島山総合研究会、1969年
えびの市郷土史編さん委員会編 『えびの市史 上巻』 宮崎県えびの市、1994年

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