ノシメトンボ

ノシメトンボ（熨斗目蜻蛉）

ノシメトンボ（学名: Sympetrum infuscatum）は、アカネ属に分類されるトンボの一種で、アキアカネと並んで日本でよく見られる代表的な赤とんぼです。その名の由来は、成虫の腹部に見られる黒い斑紋が、伝統的な熨斗目模様に似ていることにあります。地域によっては「クルマトンボ」とも呼ばれています。

形態

ノシメトンボは、赤とんぼの中では比較的大型で、特に西日本の個体はその傾向が顕著です。体長は37mmから52mm程度、腹長は22mmから35mm程度、後翅長は25mmから39mm程度で、雄雌でほぼ同じ大きさです。最大の特徴は、翅の先端部分が褐色に縁取られていることで、飛翔時にも容易に識別できます。同様の褐色斑を持つトンボとしてコノシメトンボやリスアカネが挙げられますが、ノシメトンボは腹部がより細長いことで区別できます。

雄雌ともに、顔面の額上部に小さな眉班（びはん）を持つ個体と持たない個体がいます。

幼虫（ヤゴ）は典型的な赤とんぼ型で、体長は約18mmです。ナツアカネやリスアカネと同様に、背棘は第4節から第8節、または第5節から第8節に存在します。腹部第8節の側棘は第9節の末端を大きく超えていますが、ノシメトンボは腹部全体がやや長く見える特徴があります。

生態

成虫は6月下旬頃から羽化し始め、11月下旬頃までその姿を見ることができます。平地から低山地にかけての、周辺に林地がある比較的開けた池沼や水田などに生息しています。羽化したばかりの成虫は、体が成熟するまでの間、周辺の林地や林縁で摂食活動を行います。アキアカネとは異なり、羽化水域から遠く離れた高標高地へ集団で移動することはありません。

未成熟な個体は雌雄ともに黄褐色の体色をしていますが、成熟するにつれて黒味が増していきます。雄の腹部背面は暗赤色に変化しますが、雌は橙色が濃くなる程度で、鮮やかな赤色にはなりません。翅の褐色斑の大きさには個体差があり、寒冷地ではほとんど消失している個体も見られます。

成熟した雄は水辺で縄張りを形成し、雌を見つけると交尾を行います。他の雄の侵入に対して縄張り行動を示すものの、明確な縄張りの範囲を持たず、長時間一定の範囲に固執することは少ないです。また、他種に対しては比較的寛容な傾向があります。

産卵は、水のない池畔の草原や水田の稲穂の上などで、連結したまま緩やかに飛びながら上下動を交え、卵を振り落とす連結打空産卵を行います。連結を解いて雌が単独で産卵することもあり、その際には雄が上空でホバリングしたり、付近に静止して雌の産卵を警護することもありますが、その行動は長くは続きません。水のある場所には産卵しません。秋に産み落とされた卵はそのまま越冬し、翌春、産卵場所が増水して水没した環境下で孵化し、幼虫となります。

ノシメトンボは、成熟個体であっても人間に対する警戒心が比較的薄いとされています。

類似種

翅の先端が褐色になる類似種として、コノシメトンボやリスアカネが挙げられます。成虫の大きさは、ノシメトンボが最も大きく、次いでコノシメトンボ、リスアカネの順となります。

ノシメトンボの雄は成熟しても腹部に暗赤色が差す程度ですが、リスアカネは腹部全体が橙色を帯びた赤色に変化し、コノシメトンボは顔面、胸部、腹部まで濃い赤色になるため、容易に区別できます。

翅の先端の褐色斑の濃さは、一般的にコノシメトンボが最も濃く、次いでノシメトンボ、リスアカネの順となります。しかし、この部分は未熟な時期には薄く、老熟が進むと褪色することや、個体差もあるため、決定的な識別点とはなりません。

これらの3種は、胸部側面の斑紋の形状がそれぞれ異なるため、それによって見分けることができます。ノシメトンボの特徴は、胸部側面の3本の黒条のうち、前から2本目がはっきりと上端まで達していること、前から1本目、3本目と比べて傾斜角が立っており、平行に見えない点です。胸部を観察することが、最も確実な識別方法と言えるでしょう。

近縁種

体格や体色はそれぞれ異なりますが、国内の種ではリスアカネ、ナニワトンボが近縁種として挙げられます。姿形がよく似ているコノシメトンボとは、産卵方法も異なっており、同属内であっても系統的にはそれほど近縁な種類ではありません。

参考文献

尾園暁、川島逸郎・二橋 亮『日本のトンボ』文一総合出版〈ネイチャーガイド〉、2013年3月1日。ISBN 978-4-8299-0119-9。
石田昇三・石田勝義・小島圭三・杉村光俊、『日本産トンボ幼虫・成虫検索図説』東海大学出版会、1988年6月10日。ISBN 4-486-01012-4

関連項目

* 赤とんぼ

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