熨斗

熨斗の起源と歴史

熨斗は、古くから慶事の贈答品に添えられる飾りとして用いられてきました。その起源は、アワビを薄く削ぎ、乾燥させた「熨斗鮑（のしあわび）」にあります。アワビは長寿の象徴とされ、熨斗鮑は延寿に通じる縁起物として神事や贈答品に用いられていました。

『肥前国風土記』や『延喜式』、『吾妻鏡』などの古文書にも熨斗鮑に関する記述があり、平安時代には朝廷に献上される貴重な品であったことがわかります。中世の武家社会では、武運長久を願って陣中見舞いなどに用いられたという記録も残されています。

伊勢神宮では、現在も古来の製法で調製された熨斗鮑が神事に奉納されています。三重県鳥羽市国崎町にある神宮御料鰒調製所では、毎年6月から8月にかけて、約200kgのアワビを用いた熨斗鮑の製造が行われています。伝統的な製法を受け継ぎ、一つ一つ丁寧に作られた熨斗鮑は、神聖な儀式にふさわしい貴重なものです。

熨斗の種類と形状

現代では、アワビそのものを用いることは少なくなり、代わりに紅白の紙を折りたたんで作られた「折り熨斗」が広く用いられています。折り熨斗は、その折り方によって「両折り熨斗」「片折り熨斗」などがあり、さらに「真」「行」「草」といった種類に分類されます。中央には黄色の短冊状の紙が付されており、これが熨斗鮑を表しています。

近年では、折り熨斗のデザインが簡略化され、祝儀袋などに印刷された簡略な熨斗も一般的に見られるようになりました。また、「文字のし」「わらびのし」「松葉のし」など、様々なデザインの熨斗が用いられることもあります。

熨斗に関するマナー

熨斗には、いくつかのマナーがあります。

仏事には熨斗を付けない：仏教では生臭物を避けるため、弔事には熨斗を付けません。ただし、近年では宗派によっては、お祝いごとの仏事には熨斗を付けるケースも増えています。
魚介類を贈答品にする場合、熨斗を付けない：熨斗がアワビであることから、魚介類には熨斗を付けないのが本来のマナーですが、現代ではあまり気にされない傾向にあります。
* お見舞いには熨斗を付けない：弔事では熨斗を避けることから、熨斗がお祝いの意味に理解されるようになり、お見舞いには熨斗を付けないのが一般的です。「病気を引き延ばす」といったネガティブな解釈を避けるためです。

熨斗の言葉

熨斗という漢字は、「熨（の）し」と読み、熱でしわをのばすという意味を持つ「熨」と、ひしゃくという意味の「斗」を組み合わせたものです。元々は、火で布などをアイロンがけする道具「火熨斗（ひのし）」を指していました。現代中国語でも、熨斗はアイロンを意味します。

まとめ

熨斗は、日本の伝統的な贈答文化において重要な役割を担ってきました。その歴史と文化的な背景を理解することで、より適切な贈答を行うことができるでしょう。現代の簡略化された熨斗も、その起源を理解することで、より深い意味を持つものとなるはずです。

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