ノシル・ゴワディア

ノシル・ゴワディア（1944年 - ）は、インド系アメリカ人の技術者であり、アメリカの最新鋭ステルス戦略爆撃機であるB-2「スピリット」の開発に関わったことで知られる人物です。しかし、彼は後に外国への軍事機密漏洩という重大な罪を犯し、長期にわたる懲役刑に服することとなりました。その生涯は、輝かしい技術的貢献と国家に対する裏切りという、劇的な対比を含んでいます。

インドでゾロアスター教徒（パールシー）の家庭に生まれたゴワディアは、後にアメリカ合衆国へ移住し、市民権を取得しました。1968年、彼は航空機メーカーであるノースロップ社に入社し、当時極秘に進められていたB-2爆撃機の設計チームの一員として、1986年までその開発に貢献しました。B-2は、その独特な形状と先進的なステルス技術により、敵のレーダー網を回避して精密な攻撃を行うことができる戦略兵器として開発されました。ノースロップ社を離れた後も、ゴワディアは技術者としてのキャリアを続け、1990年代には核兵器開発などで知られるロスアラモス国立研究所でも勤務しました。1999年には、自身のコンサルティング会社「N.S. Gowadia社」を設立し、独立した活動を行っていました。

彼の人生が暗転するのは2005年のことです。同年10月、アメリカの捜査当局はゴワディアに対し、複数回にわたる事情聴取を実施しました。同時に、ハワイに所有する数百万ドルに及ぶ彼の資産についても詳細な調査が行われました。そして同月、彼は許可されていない第三者、特に中国へB-2ステルス爆撃機に関する情報を含む国防機密を漏洩した疑いで逮捕されました。逮捕後の供述の中で、彼は機密性のある文書を外部に流出させた事実を認めました。

2006年11月、ハワイの連邦大陪審は、中華人民共和国に対する防衛関連技術の設計協力などを理由に、ゴワディアを正式に起訴しました。起訴状には、ゴワディアが中国へ渡航し、航空機のレーダー探知を困難にするステルス性能の鍵となる「ステルス性排気ノズル」の開発を支援したとされる具体的な内容が盛り込まれていました。

2005年の逮捕以降、ゴワディアは保釈が認められることなく、勾留され続けました。そして、長期にわたる裁判の末、2011年1月24日、アメリカ合衆国連邦裁判所において、彼はスパイ罪などで有罪とされ、32年という長期の懲役刑が言い渡されました。この判決は、国家安全保障に関わる機密情報を敵対国へ漏洩した行為の重大性を示すものとなりました。

現在、ノシル・ゴワディアは連邦刑務所に収監されており、その刑に服しています。B-2爆撃機の開発に貢献した優れた技術者であった彼の末路は、高度な軍事技術とそれに携わる専門家に対する厳格な管理体制の必要性を再認識させる事例として、今なお語られています。この事件は、国家機密の取り扱いとスパイ活動防止の重要性を浮き彫りにしただけでなく、技術者の倫理と責任についても問いかけるものとなりました。

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