ノジコ

ノジコ（Emberiza sulphurata）

スズメ目に含まれるホオジロ科の鳥類で、その中でもホオジロ属に分類される比較的小型の鳥です。漢字では「野路子」や「野地子」と表記されます。美しいさえずりと特徴的な体色が魅力ですが、生息数は多くないと考えられています。

形態の特徴

成鳥の全長はおよそ13.5センチメートルから15センチメートル程度で、翼を開いたときの幅は約21センチメートルになります。体の上面は全体的に暗褐色をしており、体の側面には褐色や灰緑色の細かな縦縞模様が見られます。尾羽は黒褐色が主体ですが、外側から数えて2枚ずつの羽にははっきりとした白い斑点があり、飛翔時や静止時に目を引く特徴です。中央の尾羽は淡い赤褐色で、羽軸に沿って黒褐色の筋状の模様（軸斑）が入っています。

翼の色は黒褐色で、それぞれの羽の縁（羽縁）は淡い褐色になっています。特に、中雨覆（ちゅうあまおおい）や大雨覆（だいあまおおい）と呼ばれる部分の先端には白い模様があり、これが翼をたたんでいるときには2本の白い帯状の筋（翼帯）として観察できます。

顔つきを見ると、目の周りの上下に白いリング状の模様（アイリング）があります。嘴は青みがかった灰色をしており、後肢の色は淡い黄褐色です。

オスとメスでは羽の色に違いが見られます。オスは頭部から体の上面にかけて黄緑色や灰緑色の羽毛に覆われており、体の下面は鮮やかな黄色をしています。目の前方の部分（眼先）は黒く見えます。一方、メスはオスに比べて色が地味で、頭部や体の上面は淡褐色、下面は淡い黄色の羽毛が主体です。眼先の色もオスのような黒ではなく、淡褐色です。

分布と渡り

ノジコの生息域は、中華人民共和国の南東部、台湾、日本、そしてフィリピン北部など比較的限られた地域に分布しています。この鳥の最も特徴的な分布は、日本でのみ繁殖を行うという点です。

夏の間、主に本州の北部、特に中部地方から青森県津軽地域にかけての山岳地帯で繁殖活動を行います。このため、ノジコは日本では夏鳥として知られています。繁殖期が終わる冬になると、越冬のために南へ移動し、中華人民共和国南東部やフィリピン北部などで冬を過ごします。ただし、本州の西部より南の地域でも、一部の個体がそのまま越冬する姿が観察されることもあります。

生態

繁殖期には、標高およそ400メートルから1,500メートルの間にある、比較的開けた森林に生息しています。木が生い茂った密林よりも、少し開けた明るい場所を好むようです。

食性は多様なものを食べる雑食性です。主に昆虫類や植物の種子などを口にします。季節によって食べるものが変化する傾向があり、夏の間は繁殖のために多くのエネルギーが必要なため、樹上で活発に昆虫を捕らえて食べることが多くなります。一方、冬になると、地面に降りて植物の種子を探して食べることが多くなります。

繁殖は卵生で行われます。巣は、地面近くの草の根元や、地上から2メートル以下の高さにある低い木の枝の上に作られることが一般的です。巣材には植物の茎や枯れ葉などが使われ、これらを上手に組み合わせてお椀のような形に作られます。産卵期は5月から7月にかけてで、一度に2個から5個の卵を産みますが、最も多いのは4個です。卵を温める抱卵は、オスとメスの両方が交代で行い、抱卵期間は約14日間です。卵から孵った雛は、わずか7日から8日ほどで巣立ちを迎えます。

人間との関係と保全状況

ノジコは、その分布域が限定的であることに加え、生息数もそれほど多くないと推定されています。人間の活動による生息環境の変化などが、その数に影響を与えている可能性が指摘されています。

このような状況から、日本の環境省が定めるレッドリストでは、「準絶滅危惧（NT）」に指定されており、今後の生息状況の推移を注意深く見守り、必要に応じて保全対策を講じる必要があるとされています。

日本のみで繁殖するというユニークな生態を持つノジコは、日本の自然環境を象徴する鳥の一つと言えるでしょう。その美しい姿を将来にわたって見守っていくために、生息地の保全に向けた取り組みが重要となっています。

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