ノヤン

ノヤンについての詳細

ノヤン（モンゴル語: ᠨᠣᠶᠠᠨ、英語: noyān）は、中世モンゴルの社会において、国の支配者層を指す称号として用いられていました。この言葉は元々、モンゴル部族における有力者や、部族会議であるクリルタイに参加することができる者たちを指していましたが、次第に遊牧集団の領主や官僚機構の幹部を意味するようになりました。

ノヤンという概念の起源は、モンゴル部が「カン」（王）を戴かず、血縁関係に基づく統治が行われていた時代に遡るとされています。この時期には、モンゴル部の軍事指導者や宗教的リーダーも、便宜的に「ノヤン」と呼ばれていました。この背景には、モンゴル社会における血縁的なつながりが重要視されていたことが窺えます。

1206年には、チンギス・カンがモンゴル帝国を築き上げ、配下の遊牧民を95の千人隊に再編成することで千人隊制度が設けられました。この際、千人隊の指揮官である千人隊長や百人隊長、十人隊長が任命され、彼らはそれぞれ自らの遊牧民や遊牧地を持つことになり、広義にはノヤンとして扱われるようになりました。これにより、ノヤンは単なる貴族に留まらず、軍事指揮官としての役割も担うこととなりました。

ノヤンたちは、クリルタイへの出席や特権の享受が許され、モンゴル帝国の社会における上層階級としての地位を確立しました。一方で、一般のモンゴル人や非モンゴル人は「カラチュ」と呼ばれ、ノヤンよりも格下の存在として扱われました。モンゴル帝国が征服地を広げるにつれて、現地採用の官僚も登場し、特に耶律楚材のような人物が高く評価されるようになりましたが、文化的・格上であるノヤン階級の「使用人」としての立場は変わりませんでした。

さらに北元時代に入ると、「ノヤン」の意味する対象が微妙に変化します。この時期には、チンギス・カンの直系の末裔である「黄金氏族」と、それ以外の貴族階級との対立が顕著化し、それぞれを厳密に区別する必要が生じました。その結果、チンギス・カンの子孫たちが「ノヤン」と称され、それ以外の貴族層は「サイト」（sayit）と呼ばれるようになりました。ここで「サイト」という名は、「異姓貴族」と訳されることもあります。

このように、ノヤンという地位は、モンゴル社会における政治的・軍事的な影響力を象徴すると同時に、その構造や変遷を理解する上で欠かせない概念となっています。ノヤンの存在は、モンゴル帝国の成り立ちやその後の歴史的な展開を考えるうえでも非常に重要な要素です。

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