ノルウェー史 (書物)

『ノルウェー史』（羅: Historia Norwegiæ）は、中世にラテン語で記述されたノルウェーの歴史書であり、現在のノルウェー地域における歴史記録として最も古いものの一つとされています。成立時期は12世紀から13世紀の間と推測されていますが、作者や成立の背景については議論が続いており、未だ定説はありません。一説には、無名の僧侶によって書かれたとも言われています。

本書は、『ノルウェー諸王のサガ要約』や修道士テオドリクスの著書『ノルウェー古代列王史』とともに、ノルウェーの歴史を概観する上で重要な資料です。『ノルウェー史』の原本は、1160年から1175年の間に書かれた可能性が高いとされていますが、より詳細な検討から、1220年までには成立したと考えられています。また、ノルウェー東部で書かれたと推測されています。

現存する唯一の写本は、スコットランド貴族ダールハウジー伯爵が所蔵していた「ダールハウジー写本」です。現在はスコットランド国立文書館に保管されています。「ダールハウジー写本」は35葉のフォリオから構成されており、そのうち最初の3篇（1-12r）が『ノルウェー史』に該当します。残りの5篇はスコットランドの歴史に関する記述で、スコットランド語で書かれています。かつて「ダールハウジー写本」は15世紀中頃のものと考えられていましたが、最近の研究では1500年から1510年の間に書かれたとされています。

『ノルウェー史』のテキストには、1211年に起きた火山噴火に関する記述や、オークニー諸島がノルウェーの統治下にあるという記述があり、これらはより古い時代に成立したことを示唆しています。

この写本の特筆すべき点として、スカルド詩人フヴィンのシヨードールヴによる『ユングリンガ・タル』のラテン語訳が収録されていることが挙げられます。これは、スノッリ・ストゥルルソンによる『ヘイムスクリングラ』の『ユングリング家のサガ』とは独立した形で存在しています。また、サーミ人のシャーマンが行う交霊会（ガンドゥスを喚ぶ儀式）に関する記述など、独自の民族誌的な情報が含まれている点も重要です。これらの記述は、多くの歴史的事実に関する最古の証言として貴重な価値を持っています。

『ノルウェー史』は、1850年にノルウェーの歴史家ペーテル・アンドレアス・ムンクによって出版されました。その後、Storm (1880) によるテキストが標準的なものとして広く用いられ、Kunin and Phelpstead (2001) によって最初の英訳版が出版されました。近年では、Ekrem, Mortensen, and Fisher (2003) による新しいテキストも発表されています。

内容

『ノルウェー史』の内容は主に以下の通りです。

ノルウェーとその領土に関する地理的な解説と、ノルウェーの簡潔な歴史
オークニー伯爵の系譜
* ノルウェー王の一覧

日本語訳としては、成川岳大氏による「翻訳 『ヒストリア・ノルベジエ (ノルウェー史) Historia Norwegie』本文及び解題」が、『北欧史研究』第26号に掲載されています。

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