スカルド詩

スカルド詩：北欧の宮廷を彩った叙事詩

9世紀から13世紀にかけて、北欧、特にスカンディナヴィア半島やアイスランドで花開いたスカルド詩は、古ノルド語で書かれた韻文詩です。宮廷に仕えたスカルドと呼ばれる詩人たちが、王や戦士たちの武勇や栄光を歌い上げた作品群は、複雑な韻律と洗練された表現技法で知られています。

スカルドとスカルド詩の特徴

スカルド詩は、神話や英雄を主題とするエッダ詩とは異なり、同時代の王族や戦士たちを主題とする点が大きな特徴です。作者が特定できる点もエッダ詩とは対照的で、現在でも240人以上のスカルドの名前が伝わっています。中には女性のスカルドもいたとされています。

スカルド詩を特徴づける要素として、以下の3点が挙げられます。

1. 宮廷律 (dróttkvætt)

宮廷律はスカルド詩特有の厳格な韻律です。通常8行から成り、各行6音節で、うち3音節に強勢が置かれます。奇数行と偶数行では頭韻と行内韻のパターンが異なり、複雑な規則が用いられています。この複雑な韻律こそが、スカルド詩の高度な技術を示すものと言えるでしょう。

2. ヘイティ (heiti)

ヘイティとは、スカルド詩特有の特殊な表現技法です。日常語に特別な意味を与えたり、隠喩的に表現することで、詩に深みと奥行きを与えています。

3. ケニング (kenning)

ケニングは、複数の単語を組み合わせることで、一つの概念を婉曲的に表現する比喩表現です。例えば「海の道」を「船」と表現するなど、比喩表現によって詩に独特の含みを持たせています。

スカルド詩の内容と代表的な作品

スカルド詩の主題は、主に王や戦士たちの武勇、偉業、そして彼らの系譜です。北欧[[神話]]も題材にされることはありますが、ケニングなどの比喩表現を用いて間接的に表現されることが多く、直接的に扱われることは少ないです。

代表的なスカルド詩としては、以下の作品が挙げられます。

『家の頌歌』: ウールヴル・ウッガソン作とされる。
『ソール頌歌』: トール神を讃える詩。エイリーヴル・ゴズルーナルソン作。
『長き秋』: フヴィーンのショーゾールヴル作とされる。
『ユングリンガ・タル』: スウェーデンの王家ユングリング家の系譜を記した詩。
『ラグナル頌歌』: ラグナル・ロズブロークを主題とした詩。ブラギ・ボッダソン作。
『ハーコンの言葉』: ハーコン善王に関する詩。
『エイリークルの言葉』: エイリーク血斧王に関する詩。
『大鴉の言葉』: ハラルドル美髪王に関する詩。ソルビョルン・ホルンクロヴィ作。
『ソナトレク』: エギルが息子たちの死を悼む詩。『エギルの[[サガ]]』に収録。
『東方の旅からの詩』

これらの作品は、スカルド詩の芸術性を理解する上で重要な手がかりとなります。

代表的なスカルド

スカルド詩を語る上で、詩人たち自身も重要な存在です。

ブラギ・ボッダソン: 最初のスカルドの一人とされている。
エギル・スカラグリームスソン: ヴァイキングとしても活躍した優れたスカルド。
シグヴァト・ソルザルソン
コルマク・オグムンダルソン
ハルフレズ・オッタルスソン
スノッリ・ストゥルルソン: 『スノッリのエッダ』の編纂者としても知られる。

これらのスカルドたちは、それぞれ独自の作風と技法で、北欧の歴史と文化を後世に残しました。

参考文献

森信嘉『スカルド詩人のサガ コルマクのサガ/ハルフレズのサガ』
ペーテル・ハルベリ（岡崎晋訳）『北欧の文学 古代・中世編』

関連事項

北欧[[神話]]
古エッダ
* スノッリのエッダ

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